米国連邦ワシントンDC地方巡回控訴裁判所(United States Court of Appeals for the District of Columbia Circuit)は5月6日,地上デジタル放送の受信機に対して「broadcast flag」対応を義務化しようという米FCC(連邦通信委員会)の規制を破棄する決定を下した(PDF形式の裁判所資料)。FCCは2005年7月1日以降,地上デジタル放送受信端末に対して,broadcast flag対応の復調装置を内蔵することを義務することを2003年11月に決めていた。しかし,今回裁判所は「有線および無線通信の受信可能な家電機器について,有線および無線通信を行うこと以外に規制する権限はFCCにはない」と指摘した。今回の判断では,broadcast flagの規制そのものが違法なのか,については触れなかった。

 今回の裁判は,American Library AssociationなどがFCCや米Motion Picture Association of America(MPAA)を相手取って起こしたもの。この判決についてMPAAが出したステイトメントによると,President兼CEOであるDan Glickman氏は「この判決は失望した。broadcast flagを採用できないのであれば,地上放送に高画質番組を提供するにはリスクは高すぎると判断する必要がある。高画質の番組は,ケーブルテレビや衛星放送,他のセキュア・システムで提供するだけに限定せざるをえなくなる可能性がある」という(Word形式の発表資料)。

 broadcast flagは,地上デジタル放送のストリームに多重するフラグのこと。このフラグがオンになっていると,番組がインターネットで再配信されないように著作権保護することを受信機に求めている。フランスTHOMSON社の事業部米RCA社は「我々が販売している中国TCL-Thomson Electronics Corp.が製造したデジタル・テレビ受信機は1年前からbroadcast flag対応を終えており,今回の決断は影響しない」という。パソコンを使って地上デジタルHDTV放送を受信する「HDTV Wonder」を製品化しているカナダATI Technologies Inc.は「7月1日からHDTV Wonderの扱いを中止すると決めていたが,今回の裁判所の判断を受けて,続けることを決めた」という。

 今後は,FCCあるいはMPAAが控訴する可能性がある。また米議会がFCCにbroadcast flagの規制を実行する権限を与える法律を策定する可能性もある。ただし,法案の策定には,時間が掛かりそうだ。