図1 三菱電機のレーザ素子。EA変調器とDFBレーザを集積した。
図1 三菱電機のレーザ素子。EA変調器とDFBレーザを集積した。
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図2 4月からサンプル出荷するレーザ・モジュール
図2 4月からサンプル出荷するレーザ・モジュール
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図3 量子井戸を浅くして,チャープ(波長の揺らぎ)を低減した。
図3 量子井戸を浅くして,チャープ(波長の揺らぎ)を低減した。
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 三菱電機は,光出力が変調時平均+4.8dBmと世界最高クラスの,80km伝送用EAM(electro-absorption modulator:電界吸収型変調器)付きDFBレーザ素子を開発した(図1)。現在開催中の電子情報通信学会(信学会)総合大会(大阪大学,2005年3月21日~24日)で発表した。

 4月1日にこのレーザ素子を用いたレーザ・モジュール製品のサンプル出荷を開始する(図2)。80kmの長距離光通信で,小型のトランシーバ「XFP」などに利用できる(Tech-On!の関連記事)。中継用の光増幅器を減らすことにもつながり,通信システムの低コスト化を実現できるという。

 同素子は,伝送速度10Gビット/秒,伝送距離80kmの光通信向けに開発したもの。+4.8dBmと高い変調時平均光出力でも「チャープ」が小さいのが特徴である。チャープとは,変調時に光の波長が揺らぐ現象のこと。チャープが大きいと符号誤り率が増大する。

 一般にEAM付きレーザ素子の光出力を増やすとチャープも増大するため,むやみに光出力を大きくできなかった。「従来の主な80km伝送用EAM付きレーザ素子の平均光出力は0dBm~+1dBmだった。これでは受信側の感度に余裕がない」(三菱電機)という。Mach-Zender型変調器などEAM以外の変調器はチャープは小さいが,寸法が大きくXFPなどの小型トランシーバには向かない。

量子井戸の深さを浅くして実現

 小さいチャープは,EAMの光吸収層に浅い量子井戸を用いて実現した。EAMは一種のフォトダイオードとも言えるので,光を受けると正孔が発生して量子井戸に蓄積し,これがチャープの増大を招いてしまう。そこで同社は「量子井戸を浅くすることで正孔の量子井戸内での残留時間を従来の1/10に抑えた」(三菱電機)という(図3)。ただし,量子井戸が浅過ぎると(光信号のオン時とオフ時の強度比である)消光比が小さくなってしまう。同社は,消光比を10.9dBと高く維持したまま,量子井戸の深さを最適化した。