金は赤,銀は黄・・・。ナノテクの大きな魅力の一つに,ある材料をナノメートルスケールまで小さくしていくと,日常のスケールのものとは違った性質を発現することが挙げられる。金属ナノ粒子はその最たる例で,金(Au)はナノスケールになると,私たちが想像する色ではなく赤色を呈し,銀(Ag)は黄色を呈すようになる(写真1) 。この現象は,表面プラズモンと呼ばれるもので,この原理を利用してバイオセンサーなどが盛んに研究されている。しかも,金属ナノ粒子の応用先はバイオセンサーのみならず,電極材料,触媒など多彩だ。

 しかし,いざ金属ナノ粒子をデバイスに利用しようとした時,金属ナノ粒子をいかに基板に固定するかということが重要になる。今回は,簡便かつ汎用性の高いプロセスで,金属ナノ粒子の固定化法の研究を行っている京都大学 国際融合創造センター 助教授の小山 宗孝氏(写真2)に話を聞いた。

 金属ナノ粒子の代表的な固定化にはいくつかの方法がある。例えば金ナノ粒子の場合,アルカンチオールが表面に形成された基板を用いれば,それが架橋試薬としてはたらき基板表面への固定が可能だ。銀ナノ粒子の場合では,分散剤などを用いてペースト状にし,基板に吹き付けたのちに焼結・固定化するという方法がある。しかし,金属ナノ粒子のもつ導電性や触媒能をいかすためには,架橋試薬や分散剤などを用いることなく,固定する方法が望まれる。

 小山氏は,基板上での核種成長法で,Au,Ag,Pt,Pdなどの金属ナノ粒子の固定化法を開発し(写真3),同手法の特許取得をしている。具体的な操作は非常にシンプルで,金属ナノ粒子の核種成分を含む水溶液と核成長成分を含む水溶液を順次浸漬というもの。熱や真空といった条件を必要なく,高価な装置も用いない。また,基板の材質は,ITOに限らず,ガラスやカーボン,プラスチックなどでも可能であることが示されている。

 小山氏は,平板グラッシーカーボン電極に固定化されたPtナノ粒子を用いて,ダイレクトメタノール方式の燃料電池の電極としての評価を行い,高いメタノールの触媒酸化能を示すことを見出している。ただし他の最新報告では,今回のような平板カーボン電極ではなく,カーボン電極自体がナノサイズに近いものを用いているため,これらのデータと小山氏の結果を直接数値比較することは難しいが,小山氏の固定化法はナノサイズのカーボン電極にも応用可能なため,さらなる触媒酸化能の向上が期待できるとのこと。また,ITO基板上に固定化したPdナノ粒子は,写真3下に示すように,非常に高い空隙率を有していることがわかっており,触媒としての応用が期待できると言う。なお,本研究は京都ナノテククラスターの協力により進められている。(辻野 貴志

【写真1】ITO(インジウム・スズ酸化物)基板に固定化したAuナノ粒子(左),Agナノ粒子(中央),未処理のITO基板(右)。無色透明なITO基板上に,Auナノ粒子を固定化したものは赤色を呈し,Auナノ粒子を固定化したものは黄色を呈していることが分かる
【写真1】ITO(インジウム・スズ酸化物)基板に固定化したAuナノ粒子(左),Agナノ粒子(中央),未処理のITO基板(右)。無色透明なITO基板上に,Auナノ粒子を固定化したものは赤色を呈し,Auナノ粒子を固定化したものは黄色を呈していることが分かる

【写真2】京都大学 国際融合創造センター 助教授の小山宗孝氏
【写真2】京都大学 国際融合創造センター 助教授の小山宗孝氏

【写真3】上は平板グラッシーカーボン基板上に固定したPtナノ粒子のSEM写真。数nmのPtナノ粒子が,球状に集まって50nm程度のナノ粒子を形成し,高次構造をとる。下はITO基板上に固定したPdナノ粒子のSEM写真。手前のPdナノ粒子は明るく見え,奥のPdナノ粒子は暗く見える。Pdナノ粒子は高い空隙率をもって基板上に多層で固定されている
【写真3】上は平板グラッシーカーボン基板上に固定したPtナノ粒子のSEM写真。数nmのPtナノ粒子が,球状に集まって50nm程度のナノ粒子を形成し,高次構造をとる。下はITO基板上に固定したPdナノ粒子のSEM写真。手前のPdナノ粒子は明るく見え,奥のPdナノ粒子は暗く見える。Pdナノ粒子は高い空隙率をもって基板上に多層で固定されている