「組み込みソフトウエアの供給元として,ユーザー企業である組み込み機器の開発メーカーを訴訟リスクから保護する必要があることは認識している。しかし組み込み機器では,訴訟が起こった際に当社とユーザー企業との間で法的責任をどう切り分けるのか,難しいのが現状だ——」。米Microsoft Corp.の日本法人,マイクロソフト 執行役 法務・政策企画本部 統括本部長の平野高志氏は,同社製の組み込みソフトウエアのユーザー企業を訴訟リスクから保護することについて,その難しさをこう吐露する。2005年1月13日に開催した報道関係者向けのセミナーでのことだ。

 Microsoft社は自社製品をユーザー企業に提供する際に,ユーザー企業の訴訟リスクを回避する契約を結んでいる。米The SCO Group, Inc.が起こしたLinuxユーザーへの訴訟などを契機に,米国を中心に広がっている動きに沿ったものである(Tech-On!関連記事)。ソフトウエア・メーカーが供給したソフトウエアに知的財産権の侵害の疑いがかけられ,ソフトウエア・メーカーだけでなくユーザー企業まで訴訟のターゲットになる事態に備えたものだ。

 Microsoft社の場合,パソコンやサーバ向けのソフトウエアに関しては,訴訟にかかる弁護士費用と損害賠償金を上限を設けずに肩代わりすることなどを規定している。「ここまで手厚い規定は,Microsoft社ならでは」(平野氏)と胸を張る。「米Hewlett-Packard Development Co., L.P.,米Novell, Inc,米Red Hat, Inc.といったソフトウエア・メーカーは,保護対象の訴訟を限定していたり,支払額に上限を設けている。米IBM Corp.に関しては,補償を出すような規定を設けているかどうかは分からない」(同氏)。

組み込み用とパソコン/サーバ用では別対応

 しかしMicrosoft社は,製品が組み込みソフトウエアの場合については全く別の対応をしている。「『Windows CE』といった組み込みソフトウエアの場合,補償の上限はソフトウエアのライセンス価格となる」(平野氏)。この違いについて同社は,組み込みソフトウエアの場合,同社の製品をユーザー企業が改変できる形で供給しているためと説明する。

 平野氏自身,組み込みソフトウエアについて現行の補償で十分だとは思っていない。「保護規定の拡大に向け,具体的な対応策も検討している」という。だが平野氏は一方で,「ソフトウエアの供給時にメーカー企業と交わすライセンス契約書に,どのような文言で保護規定を書き込めば責任の切り分けができるのか…」(平野氏)と悩んでいる。実際に責任の切り分けを明文化し,「Windows XP」やサーバ用ソフトウエアのように補償額の上限を撤廃するまでには,クリアすべき課題が多そうだ。