米Sony Electronics Inc.の社長兼COOである小宮山英樹氏
米Sony Electronics Inc.の社長兼COOである小宮山英樹氏
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 「HDTVを宣伝する場としては,今回のCESをおいてほかにはありません。来年のCESではもう手遅れでしょう」と言うのは,米Sony Electronics Inc.の社長兼COOである小宮山英樹氏である。

 というのも,米国のデジタル・テレビ市場は,2005年にブレイクすることが確実だからだ。米国ではFCC(米連邦通信委員会)が2007年までにすべてのテレビ受像機にATSCチューナを内蔵することを義務付けた。これが市場に大きなインパクトを与えている。「既にソニーのテレビの売り上げの6割以上はHDTV(対応機とチューナ内蔵)モデルになっています。放送でも野球,アメリカン・フットボール,ドラマなどでHDTV番組が増えている」(小宮山氏)。

 HDTVへの移行は明らかに急速に進む。それなら事が始まるのを待っている必要はない——。巨大な市場が動き出してからHDTVの宣伝をしても既に遅いのである。やるなら,今だ。営業のベテラン,小宮山氏ならではの慧眼だろう。

地道な活動が花開くとき

 米国全土でHDTVを盛り上げるには,メーカーとしてHDTV対応テレビ受像機の積極的なマーケティングを展開するのは当然のこと。加えて「環境整備作戦」と表現できるようなアクションも同時に採っている。HDTVコンテンツがたくさん制作されるための下地づくりである。

 例えば同社は2004年夏のアテネ・オリンピックでNBCに全面協力し,オリンピック関連のすべて番組のHDTV放送を実現した。CBSにはアメリカン・フットボール中継で協力し,ケーブル・オペレータ大手のCox Communications, Inc.とはHDTVでのケーブル番組制作で協力している。大型の「HDTV教育バス」を仕立てて地方の学校を回るといった,地道な活動も展開している。そんな努力の成果は着実に出ているという。「米国で『HDTVと聞いたときどのメーカーを想起するか』という調査をしたところ,それはソニーだという答えが圧倒的だった」(小宮山氏)。

 ソニーは2004年秋にHDTV対応液晶プロジェクタの「Grand WEGA」で大攻勢を掛け,同年10月のリアプロの米国での市場シェアで「50%を獲得した」(小宮山氏)という。それ以前から需要は強かったものの,自社製の高温多結晶Si液晶パネルの生産がなかなか伸びずにバックオーダーを抱えていたのが,同年秋以降に生産が順調になり,その結果,大幅な伸張が得られたとする。

 今回のCESでは,徹底的にHDTVにフォーカスしたプレゼンテーションをした。リアプロジェクタでは,高温多結晶Si液晶と「SXRD」のHDTV対応機,再生専用Blu-ray Disc(BD-ROM),そして1080iで記録できるカメラ一体型VTRと,全方向でHDTVをプロモートする作戦だ。同社はこのカメラに大いに期待しているようだ。1080iのビデオ・カメラの登場で,高品質なHDTV映像の文化に「パーソナル・クリエーション」という,新しい要素を加えられるからだ。BD-ROMで映画ソフトを楽しむという「パッシブ(受動的な)」文化と併せて,自分でHDTV映像を撮影し,それを薄型テレビやプロジェクタの高画質環境で再生,鑑賞する「アクティブ」なHDTV文化が今後,大いに栄えるに違いない。

 2006年からはHDTVが当たり前のテレビになる。つまり「High Definition」が「Standard Definition」になる。だからHDTVのキャンペーンは,今回をおいてないのである。