仏Thomson S.A.が2005年1月5日に開いた記者会見で「Film Grain Technology」と呼ぶコーデック技術について言及した。「これは,我が社の開発アイテムでも特に注目すべきもので,映画フィルムのルック&フィーリングを低い符号化データ速度で実現する技術です。映画作品のIP(internet protocol)配信,衛星放送,次世代DVDなどに最適と思っている」と,同社幹部が発言した。

 Thomson社が買収したRCAは,テレビの歴史を作ってきた存在だ。その技術上の心臓部とも言えるのが,米国東部のPrincetonにあるサーノフ研究所(Thomson's research group)である。そこでは先進的な映像圧縮技術が開発されているが,そのひとつの成果が,今回のFilm Grain Technologyなのだという。これはMPEG-4 AVC High Profileの改良版。高圧縮下での画質を改善する技術で,次世代DVDの1つであるHD DVDのコーデックのオプションのひとつとして,DVD Forumで検討されている。

 低解像度・低符号化データ速度をターゲットに開発されたMPEG-4 AVCは,被写体の輪郭をはっきり出すのは得意だが,ディテールは捨てるという特徴がある。輪郭は明確だが,微小信号のフィルム・グレイン(粒子)が出にくい,つまり映画の質感が出にくいのだ。ハリウッドなどの映画スタジオがフィルム・テイストとしてもっとも重視するのはフィルム・グレインの再現だが,MPEG-4 AVCだとそれが難しいことはかねて指摘されていた。フィルム・グレインとは,フィルム独特の雑音の一種である。テレビの世界では,それは単なる雑音なのだが,映画の世界では「ハリウッドの魂」になるのだから,この二つの世界は,大きく隔たりがある。

 それはともかく,ノーマルなMPEG-4 AVCだと消えてしまう粒子ノイズを確保する圧縮技術の開発に,このところ各社が必死になって取り組んできた。そのひとつが,このFilm Grain Technologyというわけ。開発に当たっては,Thomson社の子会社で,光ディスクの製造・流通で大手のTechnicolorの協力も得た。

 この技術の中身は,簡単に言うと,各フレームごとに自動的にフィルム・グレインの量を予測し,加えていくというもの。そのパフォーマンスはスタジオからも支持(Walt Disney Companyと Warner Bros)されたという。Thomson社は,Blu-ray Disc Associationの中核企業でもあり,BD-ROMへの採用も働きかけている。