「これからは,一家に複数のデジタル・テレビがある時代です」とは,仏Thomson S.A.(米国でのブランドはRCA)の記者会見で同社幹部の発言だ。アナログからデジタルへの転換は,今や「これから起こること」ではなく「リアル」な段階に入り,リビング・ルームに置くHDTV対応の大型HDTV受像機だけでなくSDTVの安いデジタル・テレビ受像機を寝室に置きたいといった多様なニーズが生まれているというのが,その根拠だ。

 DTV(デジタル・テレビ放送)の話となると,このところHDTVに関するものがほとんどだが,ここにきてSDTVのデジタル・テレビが本格的に語られたのは,CESの歴史でも初めてのことだ。CEAの調べでは,米国のデジタル・テレビ市場は2002年以降,大幅に伸び,特に2005年以降の伸びは著しい。リビング・ルームはプラズマ,液晶,画素型リアプロジェクタで占められる。一方,現行のアナログ・テレビ受像機がそうであるように,個室やベッド・ルームでもデジタル・テレビを見るようになる。それは大画面ではなく,使い勝手のよいサイズで,しかも求めやすいものでなくてはならないだろう。

 「これからThomsonはaffordabilityを追求します」と幹部は言った。筆者が「買いやすいっていくら?」と聞くと「ブラウン管のアナログ・テレビと同じ,300米ドル以下を目指します」との答え。安い! デジタル・テレビが3万円以下!

 ここまで自信を持った言い方をするのは,昨夏から,中国の大手家電メーカーTCLと合弁で,テレビ受像機メーカーのTTEを立ち上げ,はやくも生産量では世界一になったからだ。中国仕込みの大量生産力により,まさに「affordable」な価格で,テレビ生産が可能になったのだ。

 実は米国のデジタル・テレビには,さまざまな種類がある。大きくHDTV(high-definition television),EDTV(enhanced definition television),SDTV(standard definition television)に分かれる。HDTVは,画面のアスペクト比が16対9のワイドスクリーンで,解像度は720p,1080i。EDTVはDVDクオリティというわけで,480pで16対9もしくは4対3のアスペクト比。SDTVは480iで16対9もしくは4対3のアスペクト比である。Thomsonは,このうちSDTVで打って出る作戦だ。

 「でも,画質は良いですよ。明らかに画面の雑音は少ないし,鮮明です」。同社はこう説明し,記者発表会で前面に据えられた舞台には,同じサイズのアナログとデジタルのSDTVを並べて画質比較ができるようにしていた。ダウンコンバート専用にしてコストを抑えたATSCチューナを用いているとはいえ,この画質で放送を見ることができるブラウン管テレビが300米ドル以下で手に入るとは,驚きだ。我が国でも三洋電機が,SDTV専用の液晶デジタル・テレビを発売したが,世界的にもこれは次の潮流だろう。

記者発表会の舞台に据えられた2台のSDTV受像機。左がアナログ,右がデジタル放送の表示。この写真では分かりにくいが,画面の鮮明さなどで明らかにデジタル放送が優位にあることを強調していた。
記者発表会の舞台に据えられた2台のSDTV受像機。左がアナログ,右がデジタル放送の表示。この写真では分かりにくいが,画面の鮮明さなどで明らかにデジタル放送が優位にあることを強調していた。
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