信州大学 繊維学部 教授の鈴木 栄二氏らは,2004年9月27日,KOA保土谷化学工業と共同で,n/pタンデム型と呼ぶ新しい構造の色素太陽電池(写真1)を開発したと発表した。従来型よりも発電量が大きい。開発できたポイントはナノテクノロジーである。

 従来の色素太陽電池は陰極のみで発電することで「n型」と呼ぶのに対し,今回開発した色素太陽電池は陽極でも発電するため「n/pタンデム型」と呼ぶ(図)。n型に対して陽極での発電量が加わるため,全体として発電量が大きくなる。従来のn型では,陽極で光は発電に用いなかったため,そのまま通過していた。

 今回 鈴木氏らは,酸化ニッケルのナノ微粒子に色素を吸着させた光起電力を持つp型半導体を開発。これを用いて陽極を作った。まず,色素を担持させる前にナノ微粒子で陽極の構造体を作る。この構造体の表面を電子顕微鏡で観察すると,微粒子同士がつながって繊維状構造を形成し,繊維が集合した平均20nmの空間を有する多孔質体であることがわかった(写真2)。

 続いて,ナノ微粒子の表面にメロシアニン系色素(MC)を吸着させることでp型色素太陽電池が完成する。p型色素太陽電池と酸化チタン(TiO2)微粒子からなるn型半導体電極を組み合わせることによって,n/pタンデム型色素太陽電池を作ることができる。開放電圧を測定したところ,n型電極側で0.8V,p型電極側で0.1V,両者を直列接続した一体型で0.92Vという値を得た。0.92Vは,ほぼ両極の開放電圧を合計した数値に等しい。発表者によれば,これまでに国内外で測定された開放電圧の最高値は0.8Vだったという。

 今後は,鈴木氏をリーダーとしてp型半導体材料と大型パネル化技術の開発を進める。この研究は,長野・上田地域知的クラスター創生事業として進められている。(黒川 卓)

【写真1】開発したn/pタンデム型色素太陽電池に光を照射しているところ
【写真1】開発したn/pタンデム型色素太陽電池に光を照射しているところ

【図】従来のn型色素太陽電池(左)と今回開発したn/pタンデム型色素太陽電池(右)の構造の比較
【図】従来のn型色素太陽電池(左)と今回開発したn/pタンデム型色素太陽電池(右)の構造の比較

【写真2】酸化ニッケル微粒子の電子顕微鏡写真。左は酸化ニッケル微粒子が集合して繊維組織を形成した様子,右はそれをさらに60倍拡大した写真で,多孔体であることがわかる
【写真2】酸化ニッケル微粒子の電子顕微鏡写真。左は酸化ニッケル微粒子が集合して繊維組織を形成した様子,右はそれをさらに60倍拡大した写真で,多孔体であることがわかる