トヨタ自動車 車両技術本部 第3電子技術部長 藤川 東馬氏(写真1)は,米国時間2004年6月17日から米国ハワイ州ホノルルで開幕した半導体回路に関する国際会議「2004 Symposium on VLSI Circuits」において,「Semiconductor Technologies Support New Generation Hybrid Car」と題する招待基調講演をし,同社製自動車に搭載する同社の半導体開発への取り組みに付いて述べた。

 まず藤川氏は,1台の自動車に搭載する半導体の量は,コンパクト・セダンで0.21ウエハ分(6インチ・ウエハ換算),さらにナビゲーション・システムを搭載すれば0.48ウエハ分(同)になるとした。さらに,現行の2代目プリウスに搭載する半導体量はナビ付きで0.96ウエハ(同)に達するという。これに対し,標準的なパソコン1台に搭載する半導体量は0.12ウエハ分(同)しかないとした。

 そして,自動車の燃料効率は一般的に自動車の燃料タンクから車輪への効率を論じているが,これを石油の井戸まで遡り車輪までの効率を考慮すると,2代目プリウスは32%となり,現行のガソリン車14%,現行の水素圧縮型燃料電池車22%を凌いでいるという(燃料電池車の目標値は42%)。つまり,CO2排出という環境面からも,今後自動車に搭載する半導体の量は増えていく,ということを藤川氏は指摘した。

  自動車に搭載する半導体には多くの種類があるが,自動車の基本性能や製造コスト競争に関する部分は自社製造しているという。金額ベースで5%が自社製,95%を半導体メーカから購入している。実際,同社広瀬工場(豊田市)内に2万8300m2の半導体工場を持っており,5インチと8インチの生産ラインがある。

 トヨタが自社開発している半導体技術としては,(1)プリウス搭載の50kWモーターを制御するパワー半導体「IGBTs(Insulated Gate Bipolar Transistors)」,(2)制御回路用の製造プロセスとして,デジタル回路,アナログ回路,パワー回路を混載できる「トレンチ分離型BiCDMOS」技術---を持っている。具体的な自社製半導体としては,新型クラウンから搭載を始めた,ジャイロスコープと加速度センサーを集積した「ヨーレート・センサー」がある。このセンサーは,実際のハンドル切り角とセンサーの値を比較して自動車の航行安定性を維持するためのVSC(Vehicle Stability Control)システムに使っている。

 従来のVSCシステムでは,水晶振動子を使ってヨーレートを計測していたが,MEMS技術を使って微小な容量変化を検出するジャイロセンサーを作製し,今回初めてSi半導体チップにした。これによって「センサー部分の感度を上げるとともに,製造コストが低下した」(藤川氏)。ただし,センサーの信号を処理するチップが別に必要であり,全体の製造コストは変わっていないという。

 藤川氏は「トヨタが半導体チップを自社製造することは,トヨタが業界の中で優位に立つ源である」としながらも,今後は最先端の製造プロセス技術が必要な場合もあり,半導体メーカーと協力していくこともあるとした。(神保 進一=ホノルル発)

【写真1】トヨタ自動車 車両技術本部 第3電子技術部長 藤川 東馬氏
【写真1】トヨタ自動車 車両技術本部 第3電子技術部長 藤川 東馬氏

【写真2】新型クラウンから搭載を始めたユーレート・センサー。出典:トヨタ自動車 藤川氏
【写真2】新型クラウンから搭載を始めたユーレート・センサー。出典:トヨタ自動車 藤川氏

【写真3】ユーレート・センサーのジャイロ部分。出典:トヨタ自動車 藤川氏
【写真3】ユーレート・センサーのジャイロ部分。出典:トヨタ自動車 藤川氏