京都大学 国際融合創造センター教授の藤田 静雄氏(写真)らは,ZnO(酸化亜鉛)をベースとする紫外線発光レーザー実現を目指している。理論計算では,青色発光するInGaN(インジウム・ガリウムナイトライド)よりもレーザーの発光効率が高い紫外光を発生できるという。また,ZnOレーザーを利用して白色LED(レーザー発光ダイオード)を開発する場合,一般の蛍光灯に用いられる安価な蛍光体を使うことができるなどのメリットがある。課題は,レーザー発光しやすいナノ構造を作ることとp型のZnOを開発すること。前者は実現性がみえてきたが,後者はまだ成功しておらず,特に注力する考えだ。

 レーザーが発光する基本的な原理は,物質内にあるマイナス電荷の電子とプラス電荷の孔子が再結合することにある。両者が静電気力で近づいた結合直前の状態を励起子と呼ぶが,励起子ができる前提として物体内を飛び回る電子と孔子が近づきやすいナノ構造を作る必要がある。藤田氏は以前に,日亜化学から譲り受けたInGaNの構造を電子顕微鏡で観察したところ,自己組織的にできた直径が20~30nmのInリッチな領域が20~30nm間隔で並んでいることを知った。

この領域で励起子が発生しやすいと予測し,現在はZnOに同様にナノ構造を作る研究を進めてきた。ところが,ZnOはInGaNのように組成が異なる領域が自己組織化しない。ただし藤田氏としては,たとえ将来的に自己組織化できたとしても,レーザー発光しやすいナノ構造を計算で求め,人工的に作りたいと考えている。富士通研究所がGaAs(ガリウム・ヒ素)内にInAs(インジウム・ヒ素)の量子ドットを作る際に,原子間力顕微鏡(AFM)の針でGaAs表面にナノメートルスケールの酸化膜を作り,エッチングで酸化した部分を除去し,そこにInAsを作ることに成功してうる。藤田氏は,同様の方法をZnOにも適用できないか検討した。

ところが,AFMは量産に向かないと判断し,半導体製造工程で欠陥部の補修などに用いる収束イオンビーム(FIB)を用いることにした。最新の装置では,ビームの直径を約10nmまで絞り込むことができる。藤田氏らは,FIBでSiO2(二酸化ケイ素)表面に直径約80nmの穴を400~800nm間隔で作り,この穴の中にZnOを成長させることに先ごろ成功した。このナノスケールのZnOが,励起子とそれに続くレーザーが発光しやすい領域に応用したい考え。

 残りの課題は,p型のZnOを作ること。ZnOはn型である。ZnとOは完全に1対1の化学両論組成となるため,両者の組成比を調整してp型を作ることは現在のところ困難だという。ドーピングも難しい。「p型ZnOの開発は各地で進められたが多くがあきらめた。私はどうしても作りたい」(藤田氏)と強い意欲を示す。計算上では,InGaNの励起子結合エネルギーが25meVなのに対してZnOでは60meVと高く励起子ができやすい。その結果,レーザーが発生しやすくなる。また,InGaNの青色レーザー(波長450nm)を用いて白色LEDを作る場合はYAGなどの高価な蛍光体が必要だが,ZnOから発生すると予想されるのは紫外光(365nm)であるため,一般の蛍光灯に用いられる安価な蛍光体を用いることができる。さらに,InGaNを作る際には人体に有害なアンモニアガスを用いるほか1000℃近い温度での熱処理が必要になるが,ZnOは400℃でZnを酸化させるだけで作ることができるという。

 ただし,p型ZnOはいつ開発できるか予測できないため,n型だけでも実現できるデバイスの開発を同時に進める。例えば,人体に有害な紫外線の種類(A,B,C)と強度を精密に検出できるセンサーなどを候補にあげている。(黒川 卓)

【写真】京都大学教授の藤田 静雄氏。京大の新しい桂キャンパスで撮影
【写真】京都大学教授の藤田 静雄氏。京大の新しい桂キャンパスで撮影