財団法人・神奈川科学技術アカデミー(KAST)の光科学重点研究室の大津・斎木グループは,ナノスケールの観測手段として開発が活発化している近接場光学顕微鏡(NSOM=Near-field Scanning Optical Microscopy,もしくはSNOM=Scanning Near-field Optical Microscopy)で約8nmの分解能を実現。グループリーダーで,東京大学大学院工学系研究科講師の斎木敏治氏は,「量子デバイスの基本構成要素となる量子ドットを1個ずつ観測し,個々のドットにおける電子やホールの波動関数の状態を観測できるようになる。現在,その実証実験を進めているところ」と,高分子学会の高分子エレクトロニクス研究会が2002年1月25日に東京・千代田区の上智大学で開催した「2001-2高分子エレクトロニクス研究会 ナノテクノロジーと高分子デバイス」における講演の中で明らかにした。

 従来の標準的なNSOMは分解能が100nm程度で,サイズが20~40nmの量子ドットを1個ずつ観測するのは難しいとされてきた。量子ドットのサイズよりも小さい10nmを切る分解能を実現したことで,量子ドットを1個ずつ観測できるようになり,量子デバイスの開発を大きく前進させることが期待できる。

 近接場光は,開口部を光の波長よりも大幅に小さくすることで,開口部近傍に発生する局所的な光の強力な電磁場。これを利用することで,ナノスケールの形状などを観測できるようになる。NSOMの分解能は,光の出入り口となる光ファイバープローブの開口部の大きさに依存し,一般的な光学顕微鏡のように波長には依存しない。つまり,光ファイバープローブの設計および作製技術が,分解能を高めるための重要なポイントになる。

 同グループは,光ファイバープローブの先端が2段階にすぼまる形状を採用し,先端のとがり具合を最適化するなど,設計を工夫した。また,先端を金で被覆して遮光し,最先端部の金被膜を直径20nm弱だけ除去する独自の作製プロセスを開発。これらによって,分解能も高く,十分な光の強さも得られる光ファイバープローブを実現した。一般に,分解能を高めると,光の電磁場の強さが低下することが課題とされてきた。

 同グループの研究成果を基に,すでに計測機器メーカーの日本分光(本社東京・八王子市)がNSOM装置「NFSシリーズ」を製品化し,販売している。ただし, 10nmを切る高分解能のプローブは実験室レベルでしか作製できておらず,市販はしていない。