主記憶やストレージに使われてきたメモリー技術のすみ分けの構図が崩れる。様々なメモリーが互いに“版図”の拡大を狙う戦国時代に突入した。既存のSRAM、DRAM、NANDフラッシュメモリーに加えて、新たな不揮発性メモリー技術も領地の獲得に挑む。今後はどの技術がどの階層を占めるのか。技術開発の動向から将来を予測する。

 各種の電子機器に使うメモリー技術に戦国時代が訪れている(図1)。これまでは、キャッシュはSRAM、主記憶はDRAM、ストレージ(外部記憶装置)はNANDフラッシュメモリーを使ったSSDやHDD(ハードディスク装置)といったすみ分けがあった。この構図が崩れ、従来とは異なる階層に進出する“領域侵犯”が始まっている。DRAMはキャッシュに使われ始め、NANDフラッシュメモリーはHDDが担ってきた安価なストレージの分野を侵食しつつある。

図1 メモリー階層のあちこちで新旧技術のせめぎあいが激化
高性能サーバー機などで利用されているメモリー技術群とそれらの更新や代替を狙っている新しいメモリー技術群を示した。既存のストレージはデータ書き込み時のアクセス時間が数ms以上かかるため、それを短縮する「ストレージクラスメモリー(SCM)」という領域が新しいメモリー技術の大きなターゲットになっている。ただし、既存のNANDフラッシュメモリーなども、SCM向けにインターフェースを改善しており、新技術が無条件で入り込めるわけではない。
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 加えて、新型のメモリーが既存のメモリー階層のすき間に割って入ろうとしている。いずれも電源を切ってもデータが失われない不揮発性メモリーで、既存のメモリー技術を大きく塗り替える「破壊的技術」と見る向きもある(表1)。有望視されているのが、スピン注入型磁気メモリー(STT-MRAM)や抵抗変化型メモリー(ReRAM)だ(各種メモリー技術の違いは、「各メモリー技術の特徴を直観的に把握」参照)。STTMRAMはキャッシュや主記憶、ReRAMは主記憶とストレージの間の階層への進出を狙っている。

STT-MRAM=spin transfer torque-magnetic RAM。2つの材料中の電子のスピンの向きが揃っているか逆向きになっているかで電気抵抗値が変わることを利用したメモリーである。magnetoresistiveRAMとも呼ぶ。初期のMRAMは磁界でスピンの向きを変えていたが、STT-MRAMは電流で変えている。
ReRAM=resis-tive RAM。キャパシタ―の絶縁体を微妙に電気が流れる材料にして、その抵抗値の変化で0か1を記録するメモリー。抵抗値が変わる原理は、明確になっていない。種類は酸素原子が材料中を動くもの(TaOx系ReRAM)と、銅(Cu)原子が動くもの(CBRAM)に大別される。
表1 さまざまなメモリー技術が登場 
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