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 多様な顧客の要求に応えるべく、注文を受けるたびに設計者が新規の図面を起こす。受注生産型メーカーでよく見られる光景だ。しかし、日立プラントメカニクスの中小型天井クレーン「MOTクレーン」*1シリーズは全く異なる。設計者が顧客の要求仕様(顧客仕様)を入力すると、見積仕様書や設計図(見積図)などの設計成果物が自動で出力される。そんな夢のようなシステムで設計しているのである(図1)。同社はこの自動設計システムを「天井クレーン仕様決定システム」と呼ぶ。

*1 MOTは、Modular design Overhead Travellingから取っている。ちなみに、中小型とは概ね定格荷重が80t以下の製品を指す。
図1 「天井クレーン仕様決定システム」の概要
顧客の要求仕様(顧客仕様)を入力すると、見積仕様書や見積図といった設計成果物が自動で生成される。
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 天井クレーン仕様決定システムを実現できた大きな要因の1つに、同社が2012年10月から取り組んできた「モジュラーデザイン(MD)」がある。MDは、自社で定めた標準部品を組み合わせることで顧客仕様に沿ったカスタマイズ製品を生み出す設計手法だ。

 MDでは、初めに製品の機能/性能/レイアウトといった設計パラメータをモジュール化し、次にこれらの設計パラメータを実現できるように部品仕様をモジュール化することで、標準部品を決めていく*2。すなわち、顧客仕様によって設計パラメータが決まれば、それを実現する部品仕様も標準部品も一意に決まるので、設計を自動化できるのである。日立プラントメカニクスは、このMDを導入することによって設計自動化を達成した。

*2 この場合の「モジュール化」とは、製品全体をモジュール化しやすくするために、設計パラメータや部品仕様が取り得る値(モジュール数値)を決めていくことである。

 設計自動化によって、設計工程はもちろん、生産工程の効率も大幅に向上した。例えば、引き合いを受けてから詳細設計を終えるまでの期間は従来の半分に縮まった。標準部品の種類数が全部品の7割以上に達するほど増えたことで、製造期間や製造原価は2/3になった。しかも、MDのために設計手順を全て形式知化したことによって、入社したばかりの設計者が1カ月で即戦力になるという。