ディープラーニング技術を活用するのはGoogle社やMicrosoft社といった米国企業ばかりではない。日本の企業の中にも、いち早く商用化する企業が出始めた。小売り店舗などでの人の流れの画像認識に応用したABEJA、ニュース閲覧アプリでのトピック分類に応用したスマートニュース。先駆的な2社の事例を見ていこう。

ABEJA

 ディープラーニング技術が最も成果を上げた領域である画像認識。これをいち早く商用サービスに生かしているのが、2012年設立のベンチャー企業、ABEJAである注1)。同社創業前に米国シリコンバレーに滞在していた代表取締役CEOの岡田陽介氏が「Google社が活用するなど、現地で盛んに話題になっていたディープラーニング技術を何とか事業化できないか」との思いで設立した。

注1)同社の社名はスペイン語で「ミツバチ」を意味する。

 同社が手掛けるのは、小売業や外食などの店舗内で来店客の動きやその属性を計測する「人流計測」と呼ばれるシステムだ。店舗内にカメラを設け、画像認識向きのニューラルネット「CNN(convolutional neural network)」によりリアルタイムに人流を認識する。CNNの認識精度の高さを生かし、店舗内の場所ごとの通過人数や個々の来店客の年齢・性別などを把握できる。「あらかじめ特定の陳列棚を指定しておけば、その棚を来店客が何人触ったかといったことも把握できる」(岡田氏)。場所ごとの通過人数は数値で表示するだけでなく2次元的な“温度”の分布「ヒートマップ」に見立てて可視化し、カメラ映像に重ねて表示することもできる(図1)。通過人数が多いほど“温度”が高くなる仕組みだ。

図1 独自開発のCNNで店舗内の人流をリアルタイム認識
ベンチャー企業のABEJAが運営する店舗内人流分析クラウドサービスの画面。画像認識向きのニューラルネット「CNN」を独自に実装し利用している。(写真:ABEJA)
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 認識や分析の結果は、SaaS(software-asa-service)型のクラウドサービスを通じて小売店の担当者などに提供する。店舗担当者などが数時間~1日おきに自店舗の人流分析結果をチェックし、商品の陳列や接客の改善などに生かすわけだ。価格は1台のカメラ映像の分析で月額数万円であり、既に数十社の顧客を抱えている。CNNの実行は、顧客の要望に合わせて店舗内のパソコンあるいはクラウド上で行う。