米Apple社が電気自動車(EV)に新規参入する──。2015年2月にこのニュースが世界を駆け巡って以降、憶測を含むさまざまな情報が飛び交っている。「既に1000人規模の開発チームを設けており、米Ford Motor社(以下、Ford社)などから技術者を引き抜いている」「プロジェクト名は『Titan』と呼ばれている」「2020年までにEVを発売する予定のようだ」「名前は『iCar』になりそうだ」…。

 「iPhone」で携帯電話の使い方をがらりと変えたApple社。日常的に製品を目にする身近な存在なだけに、畑違いのEVへの参入は、自動車業界の関係者だけなく、一般消費者も強い関心を示した。

 Apple社のEV参入の動きは何を意味するのか。

 「Appleはスマートフォンやタブレットなど最もエキサイティングな市場に身を投じてきた会社だ。次に狙うのがEVなら、それが大きな成長を期待できる市場であることを意味するのだろう」。米General Motors社(以下、GM社)で、EVやプラグインハイブリッド車(PHEV)向けの電池パックを担当するSenior ManagerのMartin Murray氏は、こう指摘する。

 Apple社は一部の高額所得者だけを相手にするのではなく、一般消費者の手が届く価格の商品を市場に投入して成長してきた。そんな会社がEVに参入するなら、マスマーケットを狙うのは自然な流れだ。

 もちろん現時点では、EVの販売台数は限られている。ガソリンエンジン車と比べて価格が高かったり、航続距離が短かったりするといった課題があるからだ。米Tesla Motors社(以下、Tesla社)の高級セダン「Model S」の航続距離は500km程度だが、日本で800万円以上する。日産自動車の「リーフ」は車両本体価格が約266万円(税込み)と手ごろだが、航続距離が228km(JC08モード)と短い。

 このためEVは現時点ではニッチ市場向けのクルマの域を出ていない。だが、価格や航続距離などの課題を乗り越えて、EVが多くの人に支持される時代が到来する可能性があることを、Apple社のEV参入の動きは示唆する。