早稲田大学理工学術院准教授の岩瀬英治氏らの研究グループは、亀裂(クラック)が入っても自己修復する金属配線技術を開発した(図1)。

図1 亀裂の入った金属配線が自己修復
金属配線を形成したフレキシブル基板を円筒に貼った状態で、配線の亀裂の自己修復の実験を行った。亀裂が自己修復され、配線が導通したことでLEDが点灯している。(写真:早稲田大学)
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 電界トラップと呼ぶ現象を利用しており、金属ナノ粒子でクラックを架橋させることで数十秒ほどで亀裂が自動修復する。フレキシブル基板や伸縮配線といった配線が切れやすい部分、建物内に埋め込んだセンサーや海中に設置した機器など交換や保守が難しい機器などに向ける。

 2015年1月18~22日にポルトガルで開催されたMEMS分野の国際学会「MEMS 2015(IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)」で発表し、同学会での「Outstanding Oral Paper Award Finalists」に選出された。

わずか数十秒で修復

 今回の技術では、亀裂が発生した箇所や大きさなどを事前に知る必要はなく、亀裂部分のみを選択的に修復することが可能である。

 亀裂の修復には、金属ナノ粒子を分散させた液体やゲルを用いる。こうした液体やゲルを金属配線を覆うように配置しておく(図2)。亀裂が生じた際には、金属配線に交流電圧を印加すると、液体やゲル中にある金属ナノ粒子が亀裂付近に生じた電界により引き寄せられ、亀裂部分が導通するようになる。印加電圧による電界は亀裂部分のみに生じるため、他の部分には影響を与えず亀裂を選択的に修復できる。

図2 電界トラップ現象で金属ナノ粒子を集める
基板上の金属配線の上に、金属ナノ粒子が分散した水を配置しておく。クラック(亀裂)が発生すると、その部分に電界が発生し、金属ナノ粒子が引き寄せられ、亀裂を修復する。(図:早稲田大学)

 修復のための印加電圧は、機器の動作などに支障がなければ常時、印加しておくことも可能である。その場合、亀裂が発生したことを検知する必要もなくなる。亀裂が発生した時点で、同技術により自律的に修復が始まる。