前回(2015年2月号)は、世の中の多数派である「部分最適」を重んじる人間=「I字型人間」に対して、「出る杭」とは少数派である「全体最適」を重んじる人間=「T字型人間」であり、故に「常識」という「部分最適」に基づく考え方を疑い、常識破りの変化=イノベーションを起こす人間であると述べた。今回は、なぜ今T字型人間が求められているのかと、T字型人間の精神構造について考える。

 まず、T字型人間がなぜ求められているのかを、産業革命と呼ばれる工業化が始まってからの世界的なイノベーションの歴史とT字型人間の相関から紐解きつつ考えてみよう。

 よく知られるように、18世紀の終盤以降、欧米諸国は、蒸気機関や鉄道、自動車、飛行機、カメラ、発電機、電話、オーディオ、映画、テレビ、コンピューター、インターネットなど、多くの技術的なイノベーションを次々と世界規模で生み出しており、それが経済成長を支えてきた(図1)。

図1 米国の国民1人当たりのGDP成長率の推移
1800年頃から1900年代の半ばごろまでは長期的に伸びている。これを支えたのが世界的な影響力のある技術イノベーションである。ただし、ここ50年ほどは低落傾向にある。(The Maddison-Project, http://www.ggdc.net/maddison/maddison-project/home.htm, 2013 version.より)
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 欧米諸国と、それらの技術的イノベーションを輸入してきた日本を含む多くの国々は、そのイノベーションが生む莫大な価値、すなわち顧客価値によって経済を強くしてきた。現在、経済を伸ばしている新興国はそれを後追いしているに過ぎない。

 それらのイノベーションを生み出したのが日本でないのは悔しいが、このことは、欧米諸国には他の国々とは違って200年余りにわたって多くのT字型人間が存在し、彼らが世界経済の成長に大きく貢献してきたことを示している。