おとぎの国から抜け出た小人かと思いました。思い切って購入した4Kテレビを見ていた時です。あまりに現実的な人物が実物ではありえない小ささで映されて、脳が錯覚したようです。解像度を高めると、映像がここまで本物に見えるのかと驚きました。

 現実の忠実な再現に向かうのはテレビだけではありません。いわゆるIoTも同じです。高感度のセンサーが世界を緻密に覆い、人の知覚で捉えきれない細部までデジタルデータになっていくでしょう。

 蓄積し続けるデータをスーパーコンピューターの進化と組み合わせると何が起こるのか。東京工業大学の松岡教授は、世の中のあらゆる事象が、いずれは予測可能になると主張します(記事)。現在のデータを入力すれば、あり得べき未来を高い精度でシミュレーションできるというわけです。これが本当なら、出来上がるのは言わば「現実の加速装置」です。未来に至る時間軸を自由に操り、任意の時点の世界の像が手に入ることになるでしょう。

 現実の時間も加速する場合があるのは、野澤記者が書いている通りです(記事)。同記者が執筆した「全固体電池、10年飛び越し」(記事)では、日本が考えるよりも10年早く、革新的な電池の実用化が進むシナリオを紹介しました。実際に米国は「蓄電池版マンハッタン計画」と称するプロジェクトで、未来を現在に引き寄せようとしています。

 彼らが目指す最大の用途は自動車です。安価で大容量の電池が思ったよりも早期に実現すれば、クルマの電動化は一気に加速します。自動運転技術の実用化と相まって、業界の勢力図は激変するでしょう。その日が訪れるのは、日本企業が予想する以上に早いかもしれません(記事)。

 現実の時間を加速させる根本の原動力は、人間の意思だと思います。実は、未来の予測自体は意外と簡単です。その証拠に、現在巷に溢れる電子機器の数々は、たいてい誰かが予想しています。難しいのは、誰が、いつ、どんな形でそれを実現するのかです。手元から世界中の情報にアクセスできる未来像を多くの人が思い描いていたにもかかわらず、Apple社のiPhoneが2007年に登場すると誰が予言できたでしょうか。

 人の意思の力がなければ可能性は現実になりません。だからこそ誰にでも自分が思い描く未来を生み出す機会はあるはずです。あるいは「現実の加速装置」は、そこまでも見通すのでしょうか。