あらゆるモノがネットにつながるIoTの進化の先に、「スマートマシン」が活躍する時代が見えてきた。自分の役割に応じた動作と、必要十分な知性を備えたロボットが、連携して人々に奉仕する世界が訪れる。こうした将来を見据えた機器や部品の開発が始まった。

 202x年2月某日、朝7時。次第に明るくなる光と、かすかに花の香りが混ざったそよ風で目が覚めた。残業の疲れは嘘のように消えている。休日の妻を起こさぬよう静かにベッドから抜け出し、きちんとそろえられたスリッパを履く。ダイニングテーブルには朝食が湯気を立て、カバンに入れてあったタブレット端末が、いつのまにか茶碗の横で新聞の1面を映している。昨夜、ソファに脱ぎ捨てたスーツは、クローゼットの中でシワを伸ばされ、新品さながらの姿に変わっているはずだ。

 買ったばかりの歯ブラシでも磨く力が程よいのは、使い古した歯ブラシから学習データを引き継いだからだろう。歯を磨きながら集めた口内環境のデータを健康管理サービスに送る機能も従来通りだ。洗い終えた口を拭っていると、流しっぱなしのテレビの音が消えて、迎えのクルマが来たことを知らせる。振り向けばカバンが、腰の高さに差し出されている──。

 10年前であれば絵空事とも思えたこんな風景は、もはや架空の話でなくなりつつある。遠くない未来、家の中やオフィス、工場、公共スペースで、自分の役割に応じた動作と必要十分な知性を備えたロボット、いわば「スマートマシン」が活躍する世界が訪れる。

 「IoT(Internet of Things)の次は動くモノと人工知能、クラウドを結び付ける時代がやってくる」(ロボット開発ベンチャーのフラワー・ロボティクス 代表取締役社長の松井龍哉氏)。IoTにつながるモノは、現状では世界の状況を検知するセンサーであることが多い。今後は、自ら動き、自ら考えるスマートマシンがネットワークにつながり出す。これらは、ネットを介して互いに連携し、家庭や職場など生活のあらゆるシーンで、さまざまなサービスを提供することになる。

 スマートマシンの普及は2段階で進みそうだ。まずは日常生活に入り込み、ヒトとスマートマシンがそれぞれ得意な作業・動作を分担する協調の段階が来る。その先には、スマートマシンが単独もしくは集団で自律的に動作して、人間の能力を拡張しヒトの代わりに行動する、融和の段階がやってくる(図1)。

図1 機械とヒトは「融和」に向かう
20世紀はヒトの労働を機械で代替することで、効率的な大量生産を実現した。現在は、ヒトと機械の得意なところを出し合って協働する形態に移行しつつある。さらに、将来はヒトと機械の境目が曖昧になる融和の時を迎える。(図:オムロンの資料を基に本誌が作成)
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