東芝の経営方針説明会に参加して驚きました。NANDフラッシュメモリーの今後を示すスライドで、微細化の行方を描いた矢印が、15nmを最後に途切れていたのです。ムーアの法則もいよいよ終わりか…。そう口走った途端、K記者に、たしなめられました。ムーアの法則の対象は素子の集積度であって、微細化ではないと。

 確かにその通りです。実際、東芝はNANDフラッシュの集積度をさらに高める手段を用意しています。いわゆる3次元構造の導入です。平面に素子を詰め込む代わりに、上下に積み重ねていくわけです。同社はキヤノンとナノインプリント技術の実用化に取り組むなど、必ずしもさらなる微細化を諦めたわけではありませんが、戦略を語る田中社長の口ぶりからは、15nm世代の次は3次元技術が本命との確信すら感じました。

 技術に限界論はつきものです。しかし、そのたびに上限を飛び越える新方式が鮮やかに登場することも、長年この業界を取材して来た記者として承知しているつもりです。今、LEDの市場でもそれが起きています。従来の発光効率の常識を塗り替える技術が相次いでいるのです。進化の原動力は、市場獲得への強烈な衝動です。新技術をいち早く手中にした企業は、その果実を時として独占さえできます。抜きん出た発光効率を達成したLEDメーカーは、蛍光灯という大市場を切り崩す最右翼に躍り出ます。微細化で先行する半導体メーカーは、コストや消費電力で他社を大きく引き離せます。

 もっとも技術開発のつばぜり合いが永遠でないことも事実です。ただし限界は往々にして技術とは別の角度から訪れます。かつて私が担当していた外部記憶装置の分野では、度重なる大容量化の試みも虚しく、フロッピーディスクの居場所はなくなっていきました。民生用光ディスクでは、必ずしも最高の記録密度を極めたわけではないのに、Blu-ray Discが最後の世代になりそうです。すなわち、行き過ぎた技術は市場からノーを突きつけられるのです。問題は、いつそれが来るのか事前にはハッキリ分からないこと。その見極めもまた、企業の栄枯盛衰を左右します。

 「ムーアの法則」を記した論文が世に出たのは1965年4月。50年にわたって電子産業を支え続けた立役者は、今、大きな節目を迎えています。これからの50年も同じように電子産業をけん引していくのか。限界が訪れるとしたら一体いつなのか。本誌も注意深く見守っていこうと思います。