「『脱がなくてもすごい』製品を目指した」。今号の特集記事に出てくるソニー・コンピュータエンタテインメントの開発者の言葉に思わずドキリとしました。自分の中にあった、かつての夢の名残が、すーっと色あせていく気がしたからです。

 同氏の意図はこうです。前機種「PlayStation3(PS3)」では、高性能プロセッサー「Cell」やBlu-ray Discドライブなど、「脱がないと(筐体を開けないと)」見えない部分を売り物にしていた。それに対して、今回の「PlayStation4(PS4)」ではユーザーにひと目で分かる特徴を打ち出したかったのだと。

 PS3の発売時を振り返ると、「Cell」をはじめとしたハードウエアのすごさは筐体を開けてもよく分からず、専らそれらに関する情報によっていたように思います。とりわけ我々マスコミにとって、Cellの魅力はその将来性にありました。野心的なアーキテクチャーによりゲーム機用プロセッサーの枠を超えて、テレビやサーバー、携帯機器にも広がり、「もう一つの現実世界をネットワークの中に再現することを目指す」(本誌2006年12月4日号の記事より)存在がCellだったのです。

 企業には、将来のビジョンと強い製品の両方が必要です。ただし以前のソニーは、ややもすると前者に比重が偏りがちだったのかもしれません。PS3に限らず「AIBO」や「エアボード」といった製品は、来るべき未来を予感させたものの、世界を大きく変えることはありませんでした。

 PS4の開発者の言葉は、ソニーが目の前のユーザーに確実に喜んでもらえる製品づくりに舵を切ったことを表しています。PS4が予想を上回るペースで売れているのは、その賜物でしょう。特集記事によれば、開発現場には創業当時を思わせる活気が戻っているようです。ソニーが復活するにはまだまだ多くの課題を解決しなければなりませんが、難局突破の原動力としての技術者の活躍に期待しています。

 ここに来て、同社に限らず多くの日本企業が攻めの姿勢に転じつつあります。いち早く成長軌道に復したセイコーエプソンの碓井社長は、「技術者が生み出すものこそビジネスの核」と語り、同社の技術を最大限生かせる領域としてウエアラブル機器市場の開拓に意気込みます。最先端の半導体露光装置で他社の後塵を拝してきたキヤノンは、起死回生を託したナノインプリント技術の実用化を表明しました。国内産業復興の行方を占う上でも、各社の動向からしばらく目が離せません。