さてテニスの話である

 現代テニスは従来のテニスと比べて明らかにプレースタイルもゲーム戦略も違って来ている。というのも、テニスラケットの素材や構造、加工方法などがここ数年で技術革新を起こしたため、プレースタイルも進化を遂げているのだ。

 ラケット素材は木やステンレスからカーボン素材が使われるようになり、ナノテクなどなどでの研究成果も取り入れられたことでボールをヒットしたときの反発力が飛躍的に向上した。同時にラケット重量が軽くなったため、筋力があまりない選手でもスウィングスピードを速くすることができるようになった。この結果、何種類もの回転が異なる球を打ち返すことができるようになった。

 ガット(ラケットに張ってある網)もポリエチレンやナイロンなどのいわゆるナノテクがラケット革命を起こした。そうなると鍛え上げた肉体派アスリートが直線的に打つテニススタイルから、卓球のように軽い力で車のワイパーのように素早く振り切る現代テニススタイルが登場してきた。ボールに強い回転をかけるため、バウンズすると大きく跳ねる球を相手に打ち返すことができるようになった。

 いち早くこの先端的なプレースタイルを身につけた選手が、テニスの世界4大大会であるグランドスラムで勝者になっていった。当然、世界で優勝した選手が使うラケットは飛ぶように売れる。ラケットは雑誌の表紙になり、ラケットショップのショーウインドウに飾られ、店員の絶対的なお薦め商品となって瞬く間にテニスプレーヤたちに広がっていった。

 プロのテニスプレーヤとして最も重要な事は『試合に勝つ』ということだ。そのためには常識に囚われない発想と創意工夫が必要だ。

ビジネスのプロも同じである。ビジネスパーソンにとって最も重要なことは、社会が望む需要に対してより安くて良いものを供給して収益を得ることだ。それを目的とした学習プログラムで勉強し、常識を捨てて創意工夫する姿勢が求められる。ひと昔前の時代のビジネス理論を暗記するような勉強では、いくらがんばっても時代が変わってしまっている市場から収益は得られない。

 飛ばないラケットから飛ぶラケットへ変貌を遂げたテニス界は、テニススタイルだけでなくゲーム戦略も大きく変貌した。以前のラケットでは飛ばないので後方で打つだけでは相手を倒せない。このためネット近くまで走ってボレーというノーバウンドで打つのが試合に勝つための常識だった。しかし飛ぶラケットになると後方から強烈なショットを打って攻撃できるため、ネット前に行く必要がなくなった。逆に前に行く間に、相手が後方から攻撃できてしまうのだ。プレースタイルは直線から回転に変わり、ゲーム戦略は後方からも攻撃するように変わったわけだ。

ビジネスで言うと、わざわざ飛行機や電車で遠方の取引先にまで会いに行って商談をまとめるのが常識だったのが、インターネットの普及でメールやSkypeで即座に取引ができるようになったのと同じだ。