さて、リターンマップからは、プロジェクトの成功度を評価するいくつかの評価基準が明らかになります。BET (Break-even time:損益分岐点到達時間)は、「調査開始から製品の累積利益額が開発の投資額と等しくなった時点までの時間の長さ」と定義されます。電卓プロジェクトでは、BETは32カ月となっています。開発プロジェクトにおいては、いかにしてこのBETを短縮できるかが収益性向上のカギとなります。ここでは、投資額の管理だけでなく、価格、マージン設定などマーケティング的な判断の必要となります。

 TM ( Time-to-Market;製品開発時間)は、開発プロジェクトの開始から製造開始までの時間で、電卓プロジェクトでは、12カ月となっています。TMはいわばプロジェクトチームまたは研究開発部門の効率、生産性を図る尺度であり、いかにして短縮するかが課題となります。

 BEAR (Break Even After Release:製造開始後損益分岐点到達時間)は、製造開始後、損益分岐点に達するまでの時間で、電卓プロジェクトでは、16カ月かかっています。これは製造能力、価格設定、流通システムなど様々な要因によって決定され、製造部門、マーケティング部門などの重要な評価基準となります。

 RF (Return Factor:収益係数)は、製造開始後の特定時点において利益額を投資額で割った数字です。これは、ある時点での投資効率をしめすもので、プロジェクトの収益性の基準となります。電卓プロジェクトでは、製造1年後のRFは、0.45 (利益累計額220万米ドル÷投資累計額490万米ドル)、2年後は、3.1 (1520万米ドル÷490万米ドル)となっています。RFは、プロジェクトの投資効率をプロジェクトの一定経過時間において測定する尺度となります。

 リターンマップにより、変更や修正が生じた場合の、プロジェクトへの影響を調べることができます。例えば、開発段階で、新たな新技術の採用が可能となった場合、リターンマップを書き直し、コスト、時間、収益率などについて再評価することができます。ここで、収益係数RFは向上するが、製造開始後損益分岐点到達時間BFARが長くなるといったような状況変化について、経営的な判断をすることになります。

 リターンマップは、プロジェクト初めにプランの一部として作成し、プロジェクト進行中および終結後に、プロジェクトの成果を判断する基準となります。