ネットオーディオ時代のD-A変換技術についてその動向と技術ポイントについて解説してきた。今回は、本シリーズ最終回となる。最終回にあたり、オーディオ・メーカーが発売しているいくつかのネットワーク・オーディオ・プレーヤ機器の技術的特徴について、D-A変換技術を中心に解説する。

PC/USBオーディオとLAN/NASオーディオ製品

 初回にネットオーディオをPC/USBオーディオとLAN/NASオーディオに大別した。前者の場合、音源ファイルはPCに収納されており、USBオーディオ・インターフェースで再生装置に伝送される。後者の場合、音源ファイルはNASに収納されており、LANインターフェースで再生装置に伝送される。現在、市場にはこの2種類の再生装置である、D-Aコンバータ、ネットオーディオ・プレーヤが多く存在し、今後も増加傾向にあるのは間違いない。いずれにしてもそのモデル数は多くあり、価格も5万円台から100万円を超えるものまでと多彩である。

D-A変換器ICを2チャネル独立に使うヤマハ「NP-S2000」

 最初に取り上げるのは、ヤマハの「NP-S2000」。DLNAに準拠するNASとLANに接続して用いることに特化したネットワーク・プレーヤである。豊富なファイル・フォーマットに対応しており、分解能24ビット、fs192kHzの高性能のフォーマットに対応している。第7回で解説したD-A変換回路実装技術と同じ手法を取り入れていることが同社の製品解説(製品資料やカタログ)および写真から推測できる。

 図25にNP-S2000の上面内部構造写真を示す。ネットワーク・プレーヤの構成は、大別すれば電源、デジタル部、D-A変換器+アナログ部となる。各セクションの配置とその占有面積によって回路規模(費やしたコスト)も推測可能である。この図を見ると、機器の中央に電源トランスが2個並んでいる。アナログ回路用とデジタル回路用に独立して用意したものだ。左側は電源回路ブロックで、電解コンデンサの大きさやヒートシンク付き半導体の数から、D-A変換器ICやアナログ回路に対しても独立した安定化電源が構築されていると思われる。中央に電源トランスを配置したので重量バランスを考慮してのものであろう。安定化回路が左側に配置されているので右側のアナログ、デジタル両回路基板まではDC電源ケーブルで接続される。

図25:「NP-S2000」の実装例
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 一方、右側はD-A変換器+アナログ回路基板とデジタル基板が配置されている。図からは見にくいが、D-A変換+アナログ回路基板とデジタル基板は立体的に配置されており、完全に分離されている。D-A変換部に用いられているD-A変換器ICは第7回で例に挙げたPCM1792Aである。ステレオ2チャネル対応であるが、これをL/Rチャネル独立で2個用いて完全差動出力に対応している。

 図26にNP-S2000のカタログ値の抜粋を示す。出力レベルは2.0Vであり一般的なオーディオ機器と同様である。ダイナミック・レンジは100dB以上と規定されているが、「1kHz、0dB、fs44.1kHz」の条件から、PCM量子化ビットは16ビット条件でのものと推測される。理由として、24ビットの場合、fsは48kHz/96kHz/192kHzのいずれかであるのと、D-A変換器ICの仕様(24ビットで標準127dB)から判断できる。せっかくなら24ビット条件での仕様を記載して欲しいところである。なお、16ビットでのダイナミック・レンジ100dBは理論理想特性であり、優秀な値でもある。

図26:「NP-S2000」のオーディオ特性の抜粋
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 S/Nは116dB以上となっている。これはD-A変換器IC以降のアナログ回路でのオペアンプICや回路構成から決定されていると思われる。