このOFDMのサブキャリヤごとに,異なるユーザーの情報をマッピングして多元接続を行うのが図1(c)のOFDMAです。WiMAXもIEEE802.20も同じOFDMAですが,IEEE802.20で採用されているOFDMAには若干の工夫が加えられており,Flash-OFDMと呼ばれています。これはOFDMの各サブキャリヤのユーザー割り当てを,時間ごとに切り替える方式です。例えばユーザーA,B,Cの3人がサブキャリヤf1,f2,f3にそれぞれ割り当てられていたとすると,次の時間にはf2,f3,f1のように割り当てを変えます。これにより,伝搬路の影響でサブキャリヤf1の電力が下がっても,ユーザーAがそれを一人で請け負うリスクを低減します。

MIMOで空間的に多重化して高速に

 今後は,無線LANも含め,無線MAN,無線WANは,MIMOを利用して高速化していく方向に進みそうです。MIMOとは,複数の送受信アンテナを用いて伝送速度を向上したり,誤り耐性を高くしたりする方式です。MIMOはIEEE802.11nを皮切りにさまざまなシステムでの導入が検討されており,WiMAXやMBWAのほかに3GPP-LTEでも採用が検討されています。今後の高速ワイヤレス通信に,もはや不可欠な技術といえます。

 MIMOは,周波数帯域を広げることなく送信アンテナ数に比例して伝送速度を向上させることができます。この「周波数帯域を広げることなく」というのが大きな魅力になって,高速伝送の必須技術になりつつあるといえるでしょう。MIMOという言葉自体は多入力/多出力という意味であり,幾つかの技術がありますが,ここでは伝送速度を向上させるための最も典型的な手法であるSDM(spatial division multiplexing)について説明します。図3に示すように,MIMOの中でもSDMでは,異なる送信アンテナに異なる情報をマッピングして送信するので,伝送速度は送信アンテナの本数に比例して高まります。一方受信側では,伝送路を経てこれらが混ざり合った状態で受信されます。伝搬路は図3に示すように経路に応じた係数が乗算されると見なせるため,送信と受信の間で以下の数式が成立します。

図3 MIMOによる高速伝送 空間的にデータを多重して,伝送速度を高めます。
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