アナログ エレクトロニクスを支える基盤技術
 

第1回:中・低速分野のA-D変換は,ΔΣ型が今後の主流になる

中村 黄三
2010/06/07 00:00
出典:日経エレクトロニクス、2008年8月11日号 、pp.116-124 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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これまで逐次比較型A-D変換器を使っていた機器が最近,性能向上が著しいΔΣ型に置き換わりつつある。ところが,機器設計者からは「動作原理が分からないのでΔΣ型の採用をためらっている」という声がある。本連載では,そんな設計者に向けてA-D変換器の仕組みを体系的に紹介する。(清水 直茂=日経エレクトロニクス)

 低・中速のアナログ信号をデジタル信号に変換するA-D変換器では,主に2種類の回路方式が使われる。逐次比較型(SAR:successive approximation register)とΔΣ(デルタ・シグマ)型である。高分解能を特徴とするΔΣ型といえば,これまではオーディオ向けが主な用途であり,産業向けでは逐次比較型が主流であった。産業向けのΔΣ型の変換速度は1kサンプル/秒程度と遅く,利用できる分野が限られていたためである。

 ところが近年,ΔΣ型の変換速度が逐次比較型と比べて遜色のない水準になっていることに加え,価格も16ビット・クラスの逐次比較型と比べて安価になってきた。このため,今後のA-D変換器ではΔΣ型が主流となりそうだ。A-D変換器に関するさまざまな疑問に答える本連載ではまず,ΔΣ型の要点を解説する。連載1回目の今回は,ΔΣ型の動作原理について説明し,次回はΔΣ型と逐次比較型の特徴を利用した使い分けの方法を紹介する。

性能向上が著しいΔΣ型

 これまでΔΣ型の主な用途がオーディオ向けであった背景には,逐次比較型と比べて高分解能,かつ安価に製造しやすいことがあった。オーディオ向けでは雑音や歪み,可聴帯域における利得の平坦性といった動的(AC的)特性が重要となり,これを満たすために16ビットで44.1kサンプル/秒から24ビットで196kサンプル/秒程度と,中速かつ高い分解能が必要となる。加えて,オフセット電圧や利得ドリフトといった静的(DC的)特性よりも低価格であることが優先される。ΔΣ型の変換処理回路は90%以上を論理回路で構成できるため,ICの微細化が進めば価格が下がりやすい。

図1 A-D変換器はΔΣ型の性能向上が著しい
ΔΣ型と逐次比較型のA-D変換器を,TI社製のA-D変換器について,分解能と変換速度により比較した。同一変換方式,同一分解能のクラス分けで,最も高速な製品名が記されている。
[画像のクリックで拡大表示]

 一方,産業向けでは用途によっては高精度な静的特性に加えて,高速な変換速度が求められる。市場規模が小さいため価格よりも性能が優先されやすいという市場の特性もあり,ΔΣ型よりも逐次比較型の方が普及してきた。

 だが現在,産業向けにおいてもΔΣ型の方が優位となりそうだ。A-D変換器メーカーの立場から見て,ここ5年間でΔΣ型の性能は格段に進歩しているからである(図1)。米Texas Instruments Inc.(TI社)のA-D変換器を例に取ると,16ビット・クラスにおいて,逐次比較型である「ADS8422」の変換速度が4Mサンプル/秒であるのに対し,ΔΣ型の「ADS1610」は10Mサンプル/秒と,ΔΣ型の方が高速になっている。24ビット・クラスにおいては,ΔΣ型の「ADS1274」が128kサンプル/秒であり,逐次比較型と同等の変換速度を達成している。さらに,4kサンプル/秒と低速ではあるが,ついに32ビット・クラスのA- D変換器が登場してきており,明らかにΔΣ型の開発に勢いがある。

ΔΣ型の普及を阻むのは理解不足

 ところが,このようにΔΣ型の性能が格段に上がっているにもかかわらず,産業分野におけるΔΣ型の販売比率は逐次比較型と比べて少ない。逐次比較型と ΔΣ型の販売数量の和を100%としたとき(CPU内蔵のA-D変換器は除外),日本におけるΔΣ型の販売比率は10%前後にとどまっている。米国や欧州においては20~30%であることを考えると,明らかに少ない。

 この原因としては,A-D変換器ユーザーのΔΣ型に対する理解不足がありそうだ。A-D変換器のユーザーに対する筆者による聞き取り調査によると,一番多い回答は「ΔΣ型の動作原理が分からないので新規採用をためらっている」というものであった。2番目が,「狙いの性能が満たせればどちらでもよいが,両者の性質の差による使い分けについて不安を感じている」である。一方,既にΔΣ型を採用したユーザーの意見としては(分解能は除外),「新規設計の製品であることに加えて,価格を重視した結果,ΔΣ型を選択した」というものだった。

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