携帯電話機への搭載が始まった太陽電池モジュール。しかし,この用途では,人体や建物などでできる「部分日陰」によって発電量が大幅に減る,もしくはゼロになるという課題を抱えている。理由は,単セルの太陽電池が出力する+0.4Vの電圧では電子機器を直接駆動できないため,複数のセルを直列接続して使っている点にある。NTTはこの課題を克服すべく,+0.4Vと低い電圧から動作する昇圧型DC-DCコンバータとその昇圧制御ICを開発した。(日経エレクトロニクス)

 太陽電池市場が急速に拡大している1)。日本における太陽電池の総出荷量は1998年には5万4000kWにすぎなかったが,10年後の2008年には 112万521kWと約20倍に増加した(図1)。この市場を牽引しているのは電力用途である。一般住宅の屋根に設置する太陽光発電システムや,メガソーラーなどの大規模太陽光発電システムなどの市場だ。2008年の国内向け太陽電池の出荷量は23万6787kW。このうちの実に99.5%に当たる23 万5671kWが電力用である。家電機器や電卓などに向けた民生用は0.5%の1116kWにすぎない。

1) 太陽光発電協会,「日本における太陽電池出荷量の推移」

†メガソーラー=発電規模がMWクラスの大規模な太陽光発電所。国内では,東京電力や関西電力などの電力事業者が今後設置することを明らかにしている。

図1 国内メーカーの太陽電池出荷量<br>v
図1 国内メーカーの太陽電池出荷量
国内メーカーの太陽電池総出荷量は,2008年に112万521kWに達した。1998年の約20倍である。(図:太陽光発電協会)
[画像のクリックで拡大表示]

 しかし最近になって,民生用も市場拡大の兆しを見せ始めている。例えば,交通標識や公園のLED照明などの電源として太陽電池が採用されるようになった。そして2009年6月には,ついに携帯電話機への搭載が現実のものとなった2)。今後は電力用だけでなく,民生用の需要拡大が大いに期待される。

2) 佐伯,「太陽電池搭載ケータイ「SH0002」を開けてみた」,『日経エレクトロニクス』,2009年6月29日号,no.1007,pp.21-23.

部分日陰が大きな課題に

 電力容量の観点で太陽光発電システムを分類すると,以下の三つに分けられる(表1)。第1に,電力容量が1M~1GW(1000k~100万kW)と大きい大容量システム。メガソーラーなどの大規模発電システムがこれに相当する。第2に,住宅や工場,公共施設などの屋根に設置する電力容量がkW程度の中容量システムである。第3に,電力容量が数百m~10数Wと小さい小容量システム。例えば,小型無線基地局やLED照明機器,携帯電話機などに向けたもので,将来的にはセンサ・ノードや遠隔監視システムへの適用も視野に入ってくるだろう(図2)。

表1 小容量の太陽光発電システムの課題
小容量の太陽光発電システムでは「日射条件」と「部分日陰」 「MPPT」という三つのキーワードが大きな課題になる。
図2 小容量の太陽光発電システムの例<br>NTTにおける適用例。現在,小容量の太陽光発電システムは,携帯機器や小型無線設備,簡易LED照明などに適用されている。今後は,センサ・ノードや遠隔監視システムなどへの適用が進むだろう。
図2 小容量の太陽光発電システムの例
NTTにおける適用例。現在,小容量の太陽光発電システムは,携帯機器や小型無線設備,簡易LED照明などに適用されている。今後は,センサ・ノードや遠隔監視システムなどへの適用が進むだろう。
[画像のクリックで拡大表示]

 大容量や中容量の太陽光発電システムは基本的に,日射条件が良い所を選択して設置している。ところが小容量システムは,そういうわけにはいかない。搭載する電子機器の利用形態を考えると,人間の体や建物,交通標識や街灯といったユーティリティ・ポールなどの影の影響を受けやすい環境で使われることが多く,必ずしも日射条件の良い状況で利用されるわけではない。この場合,「部分日陰」の課題に頭を悩ませられることになる。

 部分日陰とは,太陽電池の上にできた影が原因で出力電力が大幅に低下する,もしくは出力電力がゼロになる現象だ。この現象が発生する理由は,一つの太陽電池セルの出力電圧が非常に低いため,複数の電池セルを直列に接続して使っている点にある。例えば,単結晶シリコン(Si)太陽電池の場合,1セル当たりの出力電圧は+0.5V程度にすぎない。電池セルの面積を大きくしても,発電電力(出力電流)は増えるものの,出力電圧は高くならない。+0.5Vの電圧では,電子機器を直接駆動できない。もちろん,Liイオン2次電池やNi水素2次電池などを充電することもできない。

†単結晶Si太陽電池=単結晶Si基板を使って製造した太陽電池。20%を超える変換効率が得られることが特徴。ただし,価格は高い。このほか,Si材料を使う太陽電池には,多結晶Si太陽電池やアモルファスSi太陽電池などがある。さらに,CIS太陽電池やCdTe太陽電池,GaAs太陽電池などの化合物系太陽電池も実用化されている。

 そこで,多くの太陽電池モジュールでは,太陽電池セルをいくつも直列に接続して,所望の出力電圧を得ている。例えば,前述の携帯電話機では,太陽電池セルを10個直列に接続し,Liイオン2次電池の充電が可能な+4.5Vに高めている2)

2) 佐伯,「太陽電池搭載ケータイ「SH0002」を開けてみた」,『日経エレクトロニクス』,2009年6月29日号,no.1007,pp.21-23.

 ところが,複数の電池セルを直列に接続した太陽電池モジュールの一部に日陰ができると,その電池セルでの発電が不能になる。すると,太陽電池モジュール全体の出力電力が大幅に低下,もしくはゼロになってしまうのだ。この現象は,直列に接続した複数の乾電池の中にカラの乾電池が一つでも存在すると,それ全体の出力電力がゼロになることと同じである。