高性能と低消費電力を両立する─。A-D変換器の設計開発者が,常に追い求めることだ。こうした理想を目指す技術者の間で,ここ最近話題になっているアーキテクチャが,連続時間方式のΔΣ型A-D変換器である。パイプライン型A-D変換器と,逐次比較型A-D変換器の長所を併せ持つような構成である。実際に開発を手掛けるメーカーの技術者が,同変換器に注目が集まる理由について,2回に分けて解説する。(日経エレクトロニクス)

 アナログ信号とデジタル信号を結ぶA-D変換器。その進化は,変換アーキテクチャの開発と,それを実現するための半導体プロセスを含む電子部品技術の開発によって成し遂げられてきた。

 トランジスタなどの半導体が実用化されて以降,各種のプロセスに適合したさまざまな変換アーキテクチャが提案され,実際にその価値が市場で試されてきた。現在,一般的に多く利用されているA-D変換器のアーキテクチャは,次の5種類が主流になっている。

(1) 多重積分型
(2) ΔΣ型
(3) 逐次比較型(SAR型)
(4) サブレンジング型(あるいはパイプライン型)
(5) パラレル・フラッシュ型(あるいは並列型)

 このほか,フォールディング・アンプを使用したパイプラインA-D変換器などが,高速のA-D変換に利用されている本誌注1)

本誌注1) アナログ・デバイセズでは「ΔΣ型」ではなく,「ΣΔ型」と呼んでいる。動作原理上,加減算の後,差分を取り出してA-D変換処理を実行するため,この動作に準じて「シグマ・デルタ・コンバータ」としている。今回は本誌の表記に合わせて掲載した。また,「離散時間」および「連続時間」という表記についても,アナログ・デバイセズでは「時間離散」および「時間連続」と呼んでいるが,こちらも本誌の表記に合わせて掲載している。

 A-D変換器の性能指標として最も一般的なのが,変換速度と変換精度(分解能とダイナミック・レンジ)である。前述の五つのアーキテクチャは,上から変換速度の遅い順に並べてあるが,その分解能やダイナミック・レンジは,逆に上に行くほど一般的に優れている。

 いくつもの回路構成が並存しているというのは,逆に言えばオールマイティーな解決策がないということでもある。A-D変換器が用途によって,各種のアーキテクチャが並存する格好で進化を遂げてきたことを示している。

連続時間方式のΔΣに注目集まる

 A-D変換器のデバイス性能は,縦軸に分解能およびダイナミック・レンジを取り,横軸に変換速度あるいは出力データ・レートを取った図で説明するのが一般的だ(図1)。こうした図で示した際に,ある領域が手薄であることが分かる。それは,逐次比較型(SAR型)とサブレンジング/フラッシュの中間に位置する領域である。

図1 A-D変換器の分解能と変換速度
A-D変換器について,変換速度と変換精度(分解能)を指標に,その位置付けを示した。

 この領域は,パイプラインA-D変換器ほどの変換速度が求められているわけではないが,消費電力の低減が要求されている。このため,仮にパイプライン型 A-D変換器の変換速度を落として対応させようとしても消費電力が大きくなってしまい,用途に適合しない。一方で,パイプライン型と比べてノイズが低いことが強みのSAR型A-D変換器では,変換速度が十分ではない。どちらのアーキテクチャも,不得手にしている領域というわけだ。