スイッチング・レギュレータの回路を工夫することによってスイッチング周波数を高め,小型化と出力の低電圧化を両立できるエミュレーテッド電流モード(ECM)制御をNational Semiconductor社が開発,既に製品化している。電流モード制御のそれまでの問題点を挙げながら,多様化する要求にどう応えたのかを解説する。エミュレーション技術を利用した他の製品も示す。(日経エレクトロニクス)

 高効率にして発熱量を抑えたい,1V以下の低電圧を供給したい,スイッチング周波数を高めることで電源の回路面積を小型にしたい─電子機器の電源に対するニーズは高度になる一方だ。こうした多様な要求に応えられるように,降圧型スイッチング・レギュレータは進化を続けてきた。

†スイッチング・レギュレータ=トランジスタをオン/オフすることで出力電圧を制御する電源回路。スイッチングによって生成した高周波のパルス信号を,平滑回路によってリップルを抑えて定電圧にする。オン/オフの時間の比率(デューティ比)や周波数を変えることで出力電圧を制御する。スイッチング周波数が高いほどトランスや平滑回路の小型化を図れるが,スイッチングに伴う電磁雑音が発生するため対策が必要になる。

 スイッチング・レギュレータの制御方式の中で,現在よく使われているのはPWM(pulse width modulation)方式の電流モード制御である。出力電圧を安定化させやすい,電磁雑音の発生を抑えやすいという利点がある。

†PWM方式=スイッチングのパルス幅を変えることで出力電圧を制御する方式。

 ただし,従来のPWM方式の電流モード制御には,スイッチングのデューティ比を一定以上に小さくできないという制約があった(図1)。このため,出力電圧を低くしようとしても下げられない,あるいは,出力電圧を低くしようとするとスイッチング周波数も下げざるを得ず,電源回路の実装面積が大きくなってしまうという課題があった注1)

†デューティ比=パルス幅(オンタイム)を周期で割った割合。

注1)スイッチング周波数を高めるとコンデンサとインダクタを小型/薄型化できる理由は,容量性と誘導性のインピーダンスが共に周波数fの関数になっているからである。容量性インピーダンスはZC=1/(jωC),誘導性インピーダンスはZL=jωLで記述できる(ωは角速度で,ω=2πf)。従って,ある容量性/誘導性インピーダンスを得る場合,周波数fを高めればコンデンサとインダクタ共に,小型/薄型の部品を使えるようになる。

図1 スイッチング・レギュレータの制御方式を改良
図1 スイッチング・レギュレータの制御方式を改良
従来の電流モードでは出力電圧が低いときにスイッチング周波数を高くできず,小型化できない場合があった。その問題をエミュレーテッド電流モード制御によって,解決しやすくした。

 当社は,デューティ比を小さくすることが可能で,出力電圧を低くできる「エミュレーテッド電流モード(ECM:emulated current mode)制御」を開発し,この方式のスイッチング・レギュレータICを2005年に製品化した。

 プロセサやFPGA(field programmable gate array)などのLSIでは,半導体製造プロセスの微細化が進み,電源電圧や入出力電圧が1.2Vから1.1V,0.9Vへと低電圧になっている。それに伴い,12~24V以上という装置の電源から,降圧型スイッチング・レギュレータICで一気に1V程度まで電圧を落としたいという要求も増えている。