「EMC性能」達成において,工程的・期間的にいちばんしわ寄せを受けるのが検証/対策の段階である。設計図面の段階では,あいまいさを残しながらも期間短縮は可能である。しかし,製品(または試作品)が組み上がってきた段階では,それ以前の事情はどうあろうと性能を達成しなければならない。経験の積み上げ,要領の良しあし,着意の有無が,対策の期間を左右する要素として極めて大きい。

対策の進め方を提示する

 通常は機器を試作し,ある程度動作を確認した段階でEMC試験に入り,検証/対策を行う。これは,開発工程の中で唯一の「EMCのためだけの作業フェーズ」である。

 ここでは,(1)設計段階では考慮しなかった(気付かなかった)問題,(2)設計段階で検討は不可能ではないが定量的な取り扱いが困難で,期間や費用対効果,マージンの取りすぎなどの問題があるため保留にしていた問題,などを解決する。

 前述のように,EMC対策は技術的・学問的に難しい事項は少ない。この段階でのEMC対策は,通常は「フィルタ」と「シールド」である。対策が完了してからその結果を振り返ってみると,極めて当たり前のことしか実施していないことから,心配の先取りをしないことが肝要である。

 しかし実際には,対策に時間がかかると感じる技術者は多い。対策がはかどらない最大の理由は,対策の進行を自覚できる方法を講じていないからである。EMC対策は,“電磁波が見える”ように工夫しながら,原因をつぶしていくことである。そのためには,図22のような鉄則を踏まえて作業を進めなければならない。

図22 EMC 対策を着実に進めるための鉄則
図22 EMC 対策を着実に進めるための鉄則

電磁波を可視化する努力をする

 以下では,機器開発者を悩ませることが多い,エミッションを抑えるためのEMI対策の効率化について解説する。

 まず,測定用プローブを用いて,電磁波を可視化できるようにする。図23はその一例である。電線を巻いた「ループ・プローブ」と,コンデンサを使った「接触プローブ」を自作して使えばよい。絶対値測定には適さないが,放射の原因個所は探すことができる。

図23 電磁雑音放射の測定用プローブ
図23 電磁雑音放射の測定用プローブ
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 プローブで電磁波を拾い,スペクトラム・アナライザ(スペアナ)に入力する。スペアナなら所望の周波数範囲を一望できるので,対策の効率を高めることができる。この段階で絶対値を知ることは不要であり,ピックアップできる感度が低くても測定用プローブを測定個所に近づけて補うことができるので,安価なスペアナでよい。

 注意事項は,「帯域幅(受信帯域幅)」と「掃引速度」の関係である。スペアナによっては,掃引速度を指定すると最適帯域幅が自動的に選択されるものがある。スペアナは横軸が周波数軸目盛りであるが,実際には時間経過に伴って測定が行われるから(時間軸上での測定となっているから),電磁雑音の発生タイミングとの関係で電磁雑音が出たり消えたりフワフワしているように観測されることがある。このため,電磁雑音の測定では帯域幅は最大とし,掃引速度を極端に遅くしてみるとよい。この方法で全体を把握した上で,観測しやすい程度に掃引を速くするとよい。