構造設計「隠れたアンテナ」を作らない

 構造設計に関して考慮すべきことは,意図しない「隠れたアンテナ」を作らないことである。そのために,アンテナとその放射効率に関する基礎知識を身に付けておかなければならない。

†放射効率=アンテナの入力電力に対する放射電力の比。放射電力/入力電力。入力電力=放射電力+損失電力なので,放射効率=放射電力/(放射電力+損失電力)とも表される。

 構造設計でこのほかに重要なことは,電磁シールドと磁気シールドの技術である。定量的な設計が難しい事項ではあるが,電磁シールドに関しては,所要のシールド性能を達成することは困難ではない。

アンテナを小さくする

 電磁波が空中に放出されるときは,アンテナ(となる部位)が必ず存在する。高周波/大電力が存在しても,アンテナがなければ電磁波が空中に出て行くことはあり得ない。

図16 “隠れたアンテナ”に注意
図16 “隠れたアンテナ”に注意
電磁雑音の放射(EMI)の原因は,意図的かそうでないかを問わず,機器内に存在するアンテナから放出される。

 アンテナには,「線状アンテナ」と「開口面アンテナ(パラボラ・アンテナなど)」があるが,通常EMCにおいて問題となるアンテナは前者の「線状アンテナ」である。その典型例を図16に示す。アンテナを形成するような要素を機器の中から排除できれば,「隠れたアンテナ」をなくすことができる。

図17 微小ダイポール・アンテナの放射の大きさ
図17 微小ダイポール・アンテナの放射の大きさ
放射の大きさが放射抵抗に比例すると仮定した。実際の放射の大きさはさまざま因子の影響を受けるが,概略はこれで分かる。周波数100MHz(波長λ=3m)の電磁波の放射抵抗を表に示した。

 アンテナの放射能率を規定するものに,「放射抵抗」という性質がある。アンテナの給電端子に高周波電力を供給すると,放射抵抗という仮想の抵抗器にその電力が消費されたかのように見える。しかし,そこで熱になって消費されているのではなく,実は空中に電磁波が放出されている。

 図17に,微小ダイポール・アンテナの放射抵抗の計算式を示す。アンテナの放射の大きさ(放射効率)は放射抵抗に比例するから,アンテナの長さを短くすると放射抵抗は小さくなり,放射効率が低下することが分かる。例えば,アンテナの長さを1/10に短縮すると,放射効率は0.01倍(40dB低下)になる注3)

注3)この試算では放射の大きさが放射抵抗に比例するものと仮定したが,現実にはアンテナを駆動する側のインピーダンスは予測できない。

 このことから,機器の中に存在する「隠れたアンテナ」を見つけ出して,その長さを短縮すれば,電磁雑音放射を低減できることが分かる。