前回まで3回にわたり,マイコン製品を選ぶときに必要となる仕様の検討について解説してきました。実際のシステム構築では,仕様の検討に加えて,納期やコストなどについても考慮しながらマイコンを選定する必要があります。今回は,こうした制約条件の検討について解説します。(連載の目次はこちら

 システムを構築する際にはさまざまな制約条件も考慮しながら,マイコンやその他の部品を選定しなければなりません。以下では,納期・コスト,そして開発資産の活用という側面からマイコン選択の基準を考えます(図5)。考慮する範囲は広いので,ここでは最近よく使われるようになった,フラッシュ・マイコンとミドルウエアなどを中心に述べます。

図5  制約条件の検討例
図5 制約条件の検討例

[納期・コスト]
フラッシュ・メモリ搭載マイコンが有力候補に

 マイコンを意図した仕様で動作させるためには,プログラムを用意する必要があります。プログラムは普通,ROM(read only memory)と呼ばれる読み出し専用のメモリに格納しておきます。理想的には,製品の仕様が決まるとプログラムの仕様も決まり,一度作成されたプログラムは変更する必要がありません。プログラムは,マスクROMと呼ばれる書き換えができない比較的安価な部品に焼き込んで製品に搭載します。

 しかしながら実際には,開発の途中で製品の仕様が変更になったり不具合が発生したりして,プログラムの修正が製品の出荷直前まで続くことが多くなっています。このような場合,マスクROMを使用すると修正費用が莫大になります。また,マスクROMの作成にはある程度の期間が必要であるため,修正が発生すると製品の出荷が遅れる可能性もあります。

 そこで最近はマスクROMに代わり,多少コストが高くなっても,開発スケジュールに余裕を持たせるために,内容の書き換えが可能なフラッシュ・メモリを内蔵したマイコンを採用する事例が増えています。そのため,フラッシュ・メモリを内蔵したマイコンが数多く出回るようになり,使いやすくなりました。

 フラッシュ・メモリを内蔵したマイコンを選定する場合,フラッシュ・メモリの容量に気配りが必要です。製品の仕様から大まかなプログラム容量を算出し,ある程度余裕のあるメモリ容量を持ったマイコンを選定します。また同じマイコンで内蔵するフラッシュ・メモリの容量が選べるなら,予定したプログラム容量を超えてしまっても開発を継続できます。容量が変わればコストは多少変動しますが,納期を守ることができるため,この点も確認をしておきます。

 また製品を製造する際に,プログラムを誰がどのようにフラッシュ・メモリへ書き込むかも,事前に確認が必要です。プログラムの書き込みに特殊なツールが必要なら,このツールに対するコストも加味しなければなりません。マイコン・メーカーがプログラムを書き込んで納品してくれる場合は,最終的なプログラム・データをメーカーに引き渡すスケジュールと部品の納入スケジュールを確認し,マイコンを選択する際の判断材料にします。

[開発資産]
回路やソフトウエアを再利用

 マイコンを使って製品を開発する場合,あらゆるノウハウが蓄積されていきます。例えばマイコンのリセットが安定してかかるように,クロック供給のタイミングや電源回路に工夫を施すことがあります。つまり,このような知識はすべて開発資産と考えられます。

 また,マイコンを動作させるプログラムはソフトウエアとも呼ばれますが,このソフトウエアも資産として再利用の対象となります。例えば,ある信号処理用のミドルウエアを開発あるいは購入した場合,同じ機能が必要となる製品には継続的に同じソフトウエアが使われます。つまり,一度開発されたソフトウエアが安定動作するマイコンが採用され続けます。

 企業活動においては,開発投資によって得られたこうした資産をできるだけ再利用することが求められるため,一度採用されたマイコンは,そのシリーズ品も含めて継続的に採用され続ける傾向にあります。

 ここで注意が必要なことは,開発する製品に求められる要求を満たすことができる適切なマイコンを選択しなければならない,ということです。過去に採用されたマイコンやその開発資産をとことん活用するために,マイコンや開発資産を起点に開発する製品の仕様を考え出すといったケースが少なからずあるようです。これは,本末転倒と言わざるを得ません。このようにして開発された製品は,投資コストは少なく済んでも十分な顧客満足が得られず,全く売れないことになってしまうかもしれません。

 このため,シリーズ品やミドルウエアを拡張し続けているメーカーの製品を選ぶことが重要になります。メーカーのロードマップや戦略は,ぜひ確認しておきましょう。もちろん,自社で作る回路やソフトウエアも将来,再利用できるようにモジュール化などをしておくべきなのは言うまでもありません。

 このような状況を踏まえ,製品の中長期的な開発戦略を立てた上で,マイコンは慎重に選択する必要があります。