移動装備は電源を搭載し,電気エネルギーを自前で用意しなければならない。電源は,移動装備の外形寸法や稼働時間,寿命,安全性などあらゆる特徴を左右する。今回から3回にわたり,現在注目されているLiイオン2次電池や電気2重層キャパシタ,燃料電池などを取り上げ,動作原理や特徴を解説する。(日経エレクトロニクスによる要約)

 固定設備では定格電流と力率が電源設計のほぼすべてといえるが,移動装備では自前で電気エネルギーを用意する必要がある。その場合,内燃機関や燃料電池でエネルギーを生成するか,蓄電デバイスにエネルギーを貯蔵するか,両者を組み合わせるか,のいずれかになる。移動装備向け電源は固定設備向け電源ほど安定しておらず,エネルギー密度やパワー密度が限られる。電源能力が最終製品の外形寸法や重さ,航続距離,稼働時間,動作温度範囲,寿命,安全性などを左右するといっても過言でなく,最終製品のグランド・デザインでは電源が最大の課題になる。ここが従来の固定設備中心のパワー・エレクトロニクス工学と大きく異なる点である。

 移動装備の電源設計において,まずはシステム設計者と2次電池の担当者の擦り合わせが性能と安全の要諦である。システム側が電気化学の特質をよく理解すべきことはもちろんであるが,電池側でも充放電特性や劣化特性の「生データ」だけを提示するのでなく,電池モデル,例えば回路シミュレータのSPICEモデルを利用した形態にして提供すべきである。

 電池と同様に重要なシステム部品であるパワー・デバイスでは,電気特性や温度特性のデータとともに,回路モデルや熱・回路連成モデルがデバイス・メーカーから提供されている。このため,シミュレータ上で性能や温度マージンが確認できるようになっている。電池においても,放電したときの回路の安定性限界や,充放電レートに対する2次電池の安全性マージンをCADで確認できるようにすることが,モービル・パワー・エレクトロニクス工学の進歩につながる。

移動装備で使える電源とラゴーニ線図

 移動装備に使える電源は各種ある(図1)。模型や玩具には1次電池,軍事・宇宙用には太陽電池や原子力電池が使われる。一方,身近な民生品ではNi水素2次電池やLiイオン2次電池などの2次電池や,固体高分子型または固体電解質型の燃料電池が候補となる。

図1 移動体に使えるエネルギー供給源
図1 移動体に使えるエネルギー供給源
移動装備に搭載可能な電源は,電気化学キャパシタや化学電池,燃料電池,物理電池,発電機など各種ある。