移動装備製品の全体構想のステップは,Compatibility(両立性/互換性),Worthiness(適合性),Integrity(十全性/統合性)という三つの課題に応じて各レベルに分けることができる。

 このうちレベルIの課題となるCompatibilityとは,調和的共存性(相容性)が原義で,実装部品/交換部品間の寸法的,熱的,化学的,電磁気的な両立性/互換性のことである。移動装備では狭い個所に部品が集約され部品間の相互作用が大きくなるため,共存性が最大の課題になる。概念設計で最も基本的なレイアウト設計において,部品同士の物理的な干渉だけでなく,熱や電磁干渉に至るまで多くの検討すべき相互作用がある(表3)。相反するCompatibilityの要求もあるので,全体構想はこの段階で多くの時間が費やされることが多い。

 ただし,Compatibilityの課題が解決しても単に部品が「丸く収まる」だけで,概念設計では次の段階であるレベルIIの課題のWorthinessをクリアする必要がある。Worthinessとは,製品の適合性のことだ(表4)。走行制御や情報通信,HMI(human machine interface)などの機能を統合する電子システム・アーキテクチャも,このレベルIIでの課題である。レベルIIの概念設計でも,擦り合わせが必要なことは論をまたない。

表4 レベルIIの課題はWorthiness(製品の適合性)
表4 レベルIIの課題はWorthiness(製品の適合性)

 例えばハイブリッド車の場合,(1)どのような気象条件,路面条件でも乗り心地よく,安全に走れること,排出ガス規制などの車検をパスすること,(2)灼熱の砂漠から,大気が薄く酷寒の山地,強力な電波を発する送信所の敷地内まで走れること,(3)荷物を積んで楽に移動できること,(4)衝突しても感電しないなど人体への障害が少なく,また火災が起きたりしない,といったことだ。また,ロボット掃除機の例では(1)ワックスがけした滑りやすい床から,毛足の長いじゅうたんまでラクラクと走行できること,(2)ゴミを高速に吸引でき,かつ詰まらないこと,(3)ペットの犬などにいじられても壊れずに,かつ乳幼児に衝突してもケガを負わせないこと,などである。

 最後のレベルIIIの課題がIntegrityだ1)。現在のグローバル競争の中では,適合性を満たしているというだけの製品は,市場に出しても売れない。高いレベルの課題であるIntegrity,すなわち十全性や統合性への挑戦が必要である(表5

表5 レベルIIIの課題はIntegrity(製品の十全性)
表5 レベルIIIの課題はIntegrity(製品の十全性)

 Integrityには,External Integrity(外部十全性)とInternal Integrity(内部十全性)がある。External Integrityとは,要求品質に対するトータル・バランスを指し,使い勝手に優れ,多様な要求を過不足なく満たすことをいう。Internal Integrityは製品内部構造のトータル・バランスを表し,あるべき構成部品があるべき場所にあって必要な機能を必要十分に満足していることである。高いIntegrityの実現には,設計者にある種のモノづくり哲学や審美眼が求められる。ただし,その時代で最も洗練された状態の製品は工芸品に近いものがあり,工学として取り扱いにくい領域になる。