容量性寄生成分が引き起こす信号の減衰

 続いて,高速伝送系では容量性寄生成分の影響が増大することを紹介する。まずは,装置構成としてよく利用されるバックプレーン構成の基板実装を例に取り,容量性寄生成分に当たる個所がどこかを見てみよう。出力回路から入力回路まで1対1で送受信する伝送系を見ると,各構成要素のインピーダンスが「容量的特性」か「伝送路的特性」かどうかを分類できる(図4)。ここで容量的特性とは,その部分における特性の主要因が容量的であるということである。このときインピーダンスは1/jωCで示され,周波数が高くなればなるほど小さな値を持つ特性となる。伝送路的特性とはその部分の特性が特性インピーダンスで示される伝送路に見えているということで,この特性インピーダンスは基本的には周波数に依存しない特性を持つ部分となる。送信と受信を1対1で接続するシンプルなバックプレーン構造であっても,多くの容量的特性と伝送路的特性が交互に連続した構成になっていることが分かる。このことが,高周波帯域での伝送系の特性に大きな影響を与える。例えて言えば,時速100kmを想定し舗装した高速道路を,設計速度を大幅に超えるような速さで走る感覚に似ている。橋の継ぎ目などのちょっとしたくぼみ(=不整合)が自動車に与える衝撃が大きくなり,走行速度に限界が生じる。

【図4 伝送経路の寄生容量】送信と受信を1対1にシンプルに接続した伝送系であっても,高周波になればなるほど寄生容量が問題となり,インピーダンスが平らな部分(伝送路的)と凹んだ部分(容量的)が交互に存在する。
図4 伝送経路の寄生容量
送信と受信を1対1にシンプルに接続した伝送系であっても,高周波になればなるほど寄生容量が問題となり,インピーダンスが平らな部分(伝送路的)と凹んだ部分(容量的)が交互に存在する。
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 個々の容量成分が与える影響は,簡単なモデルを使って説明可能だ。特性インピーダンスが50Ωの伝送路の途中に容量CPがある場合,伝送する信号の振幅の減衰(振幅透過率)は簡単な計算式で求められる(図5)。この容量CPは図4において,容量的特性を持つ伝送系の構成部分を単純化したものである。振幅透過率は,周波数を上げていくほど減少,すなわち減衰量が増大する。

図5 高速になるほど深刻になる寄生容量の影響
伝送速度が速くなるにつれて寄生容量の影響が大きくなっていく。つまり,高速化を実現するには寄生容量を低減しなければならない。

 例えば,データ伝送速度5ビット/秒の基本周波数である2.5GHzにおいて,1.3pFの寄生容量は-1dB(11%減)の減衰を引き起こす。同じ寄生容量の状態で,伝送速度の高速化により10Gビット/秒,つまり基本周波数5GHzで伝送する場合になると,-3dB(29%減)に減衰量が増大してしまう。10Gビット/秒の伝送でも5Gビット/秒と同等の減衰量(-1dB)を実現するには,寄生容量を0.7pFに低減しなければならない。つまり,5Gビット/秒から10Gビット/秒へと伝送速度を2倍に高めるためには,寄生容量を約半分にする必要がある。伝送速度を高速化するためには,伝送系に存在する寄生容量を許容値まで低減しなくてはならず,その許容値は高速化すればするほど小さな値となるという難しさがある。

 しかし,寄生容量を減らすと簡単に言っても,高速信号伝送系では現状で既に多くの注意を払って寄生容量を低減している。さらに,寄生容量を低減することは,実際には相当に困難な状況となってきている。図4に示したシンプルなバックプレーン構造の伝送系であっても,容量的特性の要因には二つの回路容量と最低でも6個のスルーホールが存在する。回路容量は静電耐圧やLSIの入出力回路の実装構造に制約があったり,スルーホールはコネクタやLSIパッケージの実装方法,そして基板構造の制約があったりするなど,実際には寄生容量を低減するために乗り越えなければならない難しい課題が存在する。