シリアル伝送の適用によって機器の性能を向上させていくためには,高速・高周波に対応できる回路系や実装系を含んだすべての伝送系を設計できる技術を持つ必要がある。これがシリアル伝送適用によるメリットを生かすための,技術的な前提条件と考えて差し支えない。そのために必要な知識や高速伝送系の課題について見てみよう。

 まず,今後ますます高速になっていく信号伝送系の設計を行うために必要な知識体系に関して整理する。デジタル回路の伝送系設計において数年前までは,

●デジタル(論理)回路技術
●デジタル・デバイス技術
●伝送理論(主に時間ドメインの考え方)

が主に必要な知識であった。しかし今では,伝送速度の高速化に向けて信号や回路動作の現象をアナログ的に考えて理解することが必要になっている。さらに,数Gビット/秒を超えるような伝送速度の高速化においては,もはや信号伝送を電磁波のエネルギーの伝播という現象で考えたほうが理解しやすい領域に入ってきた注1)。このため,

●アナログ回路技術
●アナログ・デバイス技術
●電磁気・電磁波工学(主に周波数ドメインの考え方)
●通信理論

という知識も求められるようになってきた。

注1)ちなみに,アナログ伝送の代表である電波の世界では,従来から高周波(超短波,極超短波)という概念で使われてきたマイクロ波のVHF,UHFは3GHz以下の周波数帯域である。本稿で取り扱うような超高速伝送の周波数帯域は数G~10数GHzであり,ミリ波(30GHz以上)と呼ばれる世界に近づいている。

 さらにエラー(誤り)に関する知識も必要だ。超高速信号伝送の技術領域においては,「絶対にエラーが発生しない」という状態(エラー・フリー)はもはや望めなくなってしまった。そのため,実際の装置動作時におけるエラーの発生を前提としたビット誤り率(BER:bit error rate)を考慮した設計やエラー訂正方式の検討が必要である。このため,

●確率・統計理論
●エラー訂正技術

などに関する知識も踏まえておかねばならない。

 実際,多くの装置設計において高速インタフェースを適用する場合,特に仕様が規格化され公開されたインタフェースを利用するときには,これらすべての知識や技術を網羅して設計を行う必要がないように,あらかじめ文書化されたインタフェース設計ガイドラインに従って設計することになる。ただし,そのような場合でも,設計時に実際に発生する不具合を予防し,より品質を高めた設計を行えるように,これらの知識や技術を個々の設計者が持っていることが望ましい。

高速化における伝送系の課題

 高速伝送系を実現するためにはさまざまな課題を乗り越えなければならない。数Gビット/秒の高速伝送については,実用化時に多くの問題が生じたものの,問題を解決できる技術が既に用いられている。しかし,今後適用範囲が広がるとみられる10Gビット/秒を超えるような高速インタフェースに関しては,実現に向けてさらに考慮しなければならない課題がある。課題は伝送系のみならず回路にもわたる。伝送系には主に7項目の解決すべき課題がある(表2)。すなわち,

●タイミング・マージンの減少
●伝送系の減衰量の増加
●伝送特性の周波数依存性による波形歪みの発生
●容量性寄生成分の影響の増大
●共振現象による伝送特性劣化の顕在化
●ミックス・モード伝送設計(差動モードと同相モード)
●BER設計(確率論的設計)

である。これらの課題について,順を追って説明していこう。

表2 高速伝送の課題
表2 高速伝送の課題
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