認証試験は,機器の機能が異なれば,試験項目と使用する機材が異なります。HDMI機器は,機能の違いによってソース,シンク,ケーブル,およびリピータの各デバイス・クラスに分けられます(表4)。ソース,シンク,ケーブルは,送信,受信,伝送の各機能に対応します。リピータは中継機能ですが,受信と送信の両機能を複合した機器と考えられます。ここでは,機器メーカーがセルフ・テストを行う上で実際に行うことになるソースとシンクの規格認証試験に使用する主要機材について説明します注2)

表4 HDMI向け認証試験の計測対象分類と対応する計測内容
認証試験の試験項目の一部を,物理層の試験を中心に示しました。
[画像のクリックで拡大表示]

注2)ケーブルの試験には,2種類の方法があります。一つは,伝送路としての物理特性をさまざまな側面から計測し,必要な性能を持っているか個々に確認する方法です。もう一つは,実際のHDMIの規格に合った信号を被測定ケーブル経由で伝送し,出力波形を確認することによって,総合的な判定をする方法です。前者の方法では,サンプリング・オシロスコープやネットワーク・アナライザなどの計測器を用います。後者の方法では,信号発生器とオシロスコープを用います。どちらの方法でもケーブルが十分な性能を持っているか確認できます。ただし後者の方法ならば,シンクの試験機材と同じ機材が使えるため,設備コストが低くて済むという利点があります。

 ソースでは,HDMIの出力端子から出力される信号がHDMI Specで定めた要求値に合致していることを確認します。物理層の試験では,出力信号をアナログ波形として観測し,いくつかのパラメータを計測します。この試験に使う計測器はオシロスコープです。このほかにリンク層の試験として,出力信号をデジタル・データとして捕捉し,データの正しさと,データの送られる順序やタイミングが規格に準拠していることを確認する必要があります。この試験には,一般的にプロトコル・アナライザを使います。

†オシロスコープ=時間を水平軸,電圧を垂直軸にして信号レベルの時間による変化を2次元的なグラフとして表示する計測器。

†プロトコル・アナライザ=ネットワーク上の通信や,機器のケーブルを伝送するデータや制御信号などのやり取り(シーケンス)を取り出して,解析・表示するための装置。

 シンクでは,規格に定められた受信機能を持っていることを確認します。さまざまな試験信号を入力端子に入れて,シンクが正しく応答することを確認します。試験信号は,規格に定められた標準の信号だけでは不十分です。許容範囲の上限と下限に対応する信号が必要です。振幅や周波数,ジッタなどの値を許容範囲に合わせて振った(ストレスを加えた)信号を入力して試験します。

 標準信号発生器は,さまざまな仕様の製品が販売されています。試験仕様に合ったストレスを加えた試験信号を発生できる機材の選択肢は限られます。デジタル・パターン発生器と呼ばれる計測器が,上記のストレスを与えるのに適しています。また,所定のストレスを加えた正しい試験信号を作ろうとすると,信号をモニターするためのオシロスコープも必要になります。

 次回以降,ソース,シンクの順に,認証試験で行う実際の計測手法と,つまずきやすい注意点について解説します。

ここに注意(1)計測前の準備編
計測機材の配置は意外と重要

 計測の現場で意外に軽視されがちなのが,計測器とプローブ,フィクスチャ,ケーブルなどを含めた機材の設置状態です。オシロスコープ本体はスペースに余裕のあるベンチに設置し,ケーブルとフィクスチャには無理な力がかからない状態で被評価機器に接続できるように,機材を配置しなければなりません。場合によってはケーブル等を支えるための台なども用意します。

 こういった注意を怠ると,二つの意味で問題が起こる可能性があります。一つは機材の破損で,フィクスチャなどのデリケートな部材が過大な応力によって破壊することがあります。試験には時間がかかるのが普通で,作業中にうっかりして機材を倒したり,被評価機器の位置を動かしすぎてしまったりします。万全の注意を払いましょう。

 もう一つは測定そのものが正確でなくなることです。HDMIのような高速シリアル伝送では数GHzオーダーの信号を取り扱っています。この領域では,ケーブルの曲げ具合やコネクタの締め付け具合で,信号の伝達特性が変化することがあります。試験中に特性が変化すると正確に計測できませんので,機材の安定した設置に配慮しましょう。