他の高速データ転送技術の認証と比較してHDMIのユニークなところは,ライセンス契約者が独自に設備を準備して,自社で規格認証試験を実施する,いわゆる「セルフ・テスト」も許容していることです(図2)。セルフ・テストには多くの利点があります。大量の対象機器を何度も試験できること,試験のための搬送作業を軽減できること,新製品に関する機密情報を保護しやすいこと,などが挙げられます。セルフ・テストの実施によって,製品の開発から製造までのあらゆる場面で,一貫した基準を使った相互接続の確認ができるようになります。その半面,試験基準があいまいになる恐れがある,認証の権威付けが心許ないなどの不安もあります。

図2 HDMIの規格認証試験の手順
HDMI対応機器や対応ケーブルの規格認証試験を,外部の認証機関に委託する場合と開発現場で実施する場合に条件分けして示しました。
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 ここで念頭に置くべきは,試験に合格した製品が市場に出荷された後に接続性の問題などが生じても,相互接続を認証機関が保証してくれるわけではないことです。すべて,機器を開発したメーカーの責任で解決しなければなりません。ATCでの公式試験でも,セルフ・テストでも同じです。厳格な相互接続の確保は,セルフ・テストを実施する開発現場の技術者が,試験の狙いと試験で行う計測技術について知っていることが前提になります。このため,認証試験に関する計測技術を深く理解する必要があります。そして自社に試験環境を整えて通常はセルフ・テストを行い,ATCを標準試験環境として随時利用する使い分けが最善であると思います。

試験対象に応じて計測器を選ぶ

 HDMIの規格認証試験は,広範な試験項目をカバーしています。大きく分類すると,DVIから継承した伝送方式であるTMDSおよびディスプレイ向けシリアル通信方式であるDDCラインの物理層とリンク層の試験,それにHDMIで拡張された制御情報などに向けたリンク技術であるCECの試験です。ライセンス的に少し位置付けが異なりますが,著作権保護技術であるHDCPもあります。本稿では認証試験に向けた計測技術として,一般性が高く,多くの人に興味深いと思われるTMDSの物理層を中心に解説します。

†TMDS(transition minimized differential signaling)=2値の信号レベル間の遷移をなるべく少なくする符号化規則を採用した差動伝送方式。米Silicon Image社がDVIに導入し,HDMIでも継承されています。8ビットの情報を10ビットのシリアル信号に符号化します。情報内容によらず「1」と「0」の平均発生頻度がほぼ同じ符号が得られるため,電圧変動が少なく安定した伝送ができるのが特徴です。

†DDC(display data channel)ライン=パソコンとディスプレイの間で情報のやり取りができるようにVESAが制定したシリアル通信ラインの規格。クロックおよびデータの2線を持つI2Cハードウエアを採用しています。VGA,DVIおよびHDMIに利用されていて,EDID(extended display identification data)情報,ディスプレイ制御コマンド,コンテンツ保護など多くの目的に利用します。

†物理層=信号波形を実際に送受信する層。

†リンク層=通信機器間で信号を受け渡す層。

†CEC(consumer electronics control)=さまざまなオーディオ/ビデオ機器の間で情報やコマンドのやり取りを行うためにHDMIに採用された規格です。機器間のネットワークを構築するリンク技術として利用されています。単純な用途は,テレビのリモコンからHDMIケーブルで接続したDVDレコーダーを制御できるようにするためのリモコン信号の中継です。テレビに表示した番組表の情報を,DVDレコーダーに転送して録画予約するというような複雑な応用もできます。

†HDCP(high bandwidth digital content protection)=米Intel社などが開発した著作権保護技術です。DVIやHDMIのような非圧縮のデジタル伝送路から映像情報が不正に取り出されるのを防止します。映画会社などのコンテンツ供給者からも鍵の堅牢性を認められていて,映像インタフェースの暗号化方式の標準として期待されています。