――診断や治療の前段階、いわゆる予防分野の市場開拓には壁も多いと思います。医療のスタート地点を変えるために、具体的にどのような取り組みを進めていますか。

 やるべきことの中には、ミナケアという会社ではカバーできないものもあります。それについては「山本雄士ゼミ」というゼミを主宰して取り組んでいます。

 経済成長には技術のイノベーションと社会の仕組みのイノベーションの両輪が必要です。予防分野については、関連する要素技術はたくさん出てきている一方で、日本の制度では診断と治療だけが診療報酬の対象である以上、その技術の担い手がいない、あるいはそれをドライブする人が出てこないという状況にあります。制度の内側にいる人たちの中には「診療報酬の範囲外の医療に意味があるのか」という意見を持っている人も少なくありません。

 そういう人たちも含めて、「いやいや、僕らがやらなきゃいけない医療のバリューって、もっと上流にもあるよね」とか「診療報酬の中もそうだけど、見逃しちゃいけない部分が外にもあるよね」といった話をしているのが山本雄士ゼミです。

 医療従事者は、目の前の患者を診ていること自体にものすごく充実感とバリューを感じています。そういう人たちに予防にも目を向けてもらうためには、今感じているバリューよりも強いバリューを見せないといけないんです。それは、「稼げる」とかそういう話ではなくて、予防に取り組むことで医療職として充実感を得られる結果が出るということを示し続けるしかありません。

 何も新しい医学知識がそこにあると言うつもりもないですし、トリッキーな技術を活用しようと進めるわけでもありません。例えば、高血圧の薬について「そもそも届いてない人がこれだけいるんですよ。そこをつぶしていくだけで十分予防になりますから」といった話をするわけです。このように、病院という箱の外で医療を考えることの意義を、山本雄士ゼミを通して伝えています。

――山本雄士ゼミを通して得た具体的な「変化」はありますか。

 印象的だったのは、医学部5年生ぐらいのゼミの生徒に言われたこんな言葉です。「予防って、カッコ悪いとか、落ちぶれた医師がやるものだとか思っていました。こんなにカッコよく、医師としても重要な分野だとは知りませんでした」。

 確かに、自分が医学生だったときも、「え、健診機関? あぁ、もう現役の一線を退いちゃった人たちの仕事だよねとか、予防? 何かうさんくさいことをやっているんじゃないの」といったイメージを持っていたことをよく覚えています。生徒に、「山本さんの功績は、予防の重要性に気付かせてくれたことです」と言われたのは、「変化」を感じた一つのエピソードです。