応用物理学会会長、大阪大学 特別教授、河田 聡氏
応用物理学会会長、大阪大学 特別教授、河田 聡氏
[画像のクリックで拡大表示]

 「理学・物理学と工学・産業を結ぶ学会」として、80年以上の歴史がある応用物理学会。半導体や超伝導、有機エレクトロニクス、パワー半導体など、産業界に欠かせない技術の研究開発の最前線が、応用物理学会に集まる。その応用物理学会が今、異分野の融合領域から新しい分野を生み出そうと積極的に変革に挑んでいる。

 日経テクノロジーオンラインでは今回、応用物理学会と提携し、同学会が発行する機関誌『応用物理』に掲載されたコンテンツの中から、日経テクノロジーオンラインの読者の皆さんにぜひ知っていただきたい技術を紹介する新コラム「応用物理学会から」をスタートした(コラムはこちら)。新コラム開始に際し、2014年4月に応用物理学会会長に就任した河田 聡氏(大阪大学 特別教授)に、応用物理学会で今、何が起こっているのかを聞いた。(聞き手は、大久保 聡=日経BP社 電子・機械局 局長補佐)

――特定の分野にとどまらず、複数の分野が融合することで新しいものが生まれるということを聞く機会が増えてきた。物理学や電気・電子工学、材料科学、化学、バイオなどの分野にまで広がる応用物理学会は、こうした融合が起こり得る学会と思われる。実際、学会は今、どのような状況にあるのか。

河田氏 日本における学会全体について、まず整理しよう。学会全体でいえば、危機的な状況といえる。世界の主要国では論文数が増えているのに、日本だけ増えていない。科学や数学などの分野で比較したときに先進国の中で日本は低い位置にランクされるが、それだけではなく「強い」と考えられてきたエンジニアリングも競争力低下が止まらない。

 1989年にベルリンの壁が崩壊して以降、ソビエト連邦もなくなり、いろいろなことが世界中で起きた。その間、日本は何をしていたのかというと、時代の変化についていけなかったのではないか。「ガラパゴス化」と揶揄されることが多い日本の電化製品だけでなく、学会などアカデミアでも変化に追い付いていない。

 昨今、環境や医療などが注目されているが、こうした人間を取り巻く課題は昔から変わらない。明治時代以前でも同じことを言っていた。環境破壊してはいけない、病気を治さなければいけないのは、200年前でも今でも同じ。環境や医療に注目が集まるのでは、時代観がないのではないか。もちろん、環境も医療も大事だ。だが、そこにフォーカスしすぎると新たに生まれるテーマを見失ってしまう。今の時代、日本に欠けているのはダイバーシティ(多様性)だ。いろいろなものがうごめいている中から、何か新しいものが生まれる。そして生まれてきたら、ダイナミズムをもって集中的に支援することが重要である。

 応用物理学会はある種の閉塞状態に近づきつつある。産業界との結びつきが強い応用物理学会は、こうした状況を打破しなければならない。これからはもっといろいろなことを自由にやって、その中から新たな分野が創出される形に持っていく必要がある。応用物理学会で私は、こうした閉塞感を打破するための活動に力を入れている。

――新たな産業の種のインキュベーションになると。

河田氏 今、新しいものが出てきていないから、環境や医学に目が行ってしまうのではないだろうか。応用物理学会から、新しいものが生まれてくるようにしないといけない。学会の講演会でも、縦割りを減らして、講演会参加者がさまざまな分野の講演が聴講できるような形を作りつつある。そこから、新しいものが生まれてくるはずだ。