3Dプリンターの普及によって、あらゆる業界で仕事のやり方が劇的に進化し、ビジネスモデルさえも変容しようとしている。映画やミュージックビデオなどの特殊小道具の制作を手掛ける米Legacy Effects社は、手作業中心だった制作現場に3Dプリンターを導入し、制作期間の短縮に成功した(関連記事)。その効果や経緯について、同社Lead Systems EngineerのJason Lopes氏に聞いた。(聞き手は高野 敦=日経テクノロジーオンライン)

――初めに、Legacy Effects社が手掛けている仕事について教えてほしい。

米Legacy Effects社Lead Systems EngineerのJason Lopes氏

Lopes氏:Legacy Effects社では、映画やミュージックビデオ、テレビコマーシャルなどで使われる特殊スーツや特殊マスクといった小道具を制作している。映画「ターミネーター」シリーズや「アバター」など多くの作品に関わってきた実績がある。

 かつて、小道具の制作はすべてが手作業だった。具体的には、まず手書きのスケッチやデザインソフトで作成した2Dデータなどでアイデアやコンセプトを表現し、それらを基に職人がクレイモデルを作っていた。

 3Dプリンターは、映画「ジュラシック・パークIII」(2001年公開)や「ターミネーター3」(2003年公開)の小道具制作で試験的に採用した。そこで「3Dプリンターは使える」という感触を得られたので、その後も少しずつ導入を進めていき、ゲームソフト「Halo」(2001年発売)で本格的に活用した。Haloについては、3Dプリンターがなければ開発元の要求する納期に対応できなかったと思う。

――そもそも小道具の制作にどれぐらいの期間を要するのか。

Lopes氏:例えば、手作業で制作していたターミネーターシリーズの1作目(1984年公開)や2作目(1991年公開)の場合、1年ぐらいかかっていた。当時はインターネットも電子メールもないので、人が実際に移動して、議論を交わし、長い時間をかけて仕上げていた。

 現在は、3Dプリンターを活用することで、特殊小道具の制作期間は非常に短くなった。ターミネーターシリーズの最新作(2015年に米国で公開予定の5作目「ターミネーター・ジェニシス」)では、たった1カ月で特殊小道具を完成させた。

 制作期間が短くなっている背景には、3Dプリンターに代表される技術の進歩もさることながら、映画制作を取り巻く環境が大幅に変わったこともある。今、我々が顧客から常にいわれているのは「とにかく速く作ってほしい」ということだ。こうしたニーズに応える意味でも、3Dプリンターは欠かせない存在となっている。