グリーンハウスの実験農場に設置した円筒型色素増感太陽電池。九州工業大学がウシオ電機の協力を得て開発した。(写真:九州工業大学と科学技術振興機構のニュース・リリースより)
グリーンハウスの実験農場に設置した円筒型色素増感太陽電池。九州工業大学がウシオ電機の協力を得て開発した。(写真:九州工業大学と科学技術振興機構のニュース・リリースより)
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 九州工業大学 大学院 生命体工学研究科 教授 早瀬修二氏は、至る所に太陽電池を設置できることを狙い、円筒型色素増感太陽電池の開発を進める(前編)。同氏の研究グループがウシオ電機の協力を得て開発した円筒型の色素増感太陽電池は、実験農場でセンサの電源として実証実験している。後編では農場での実証実験の意図や、同氏が円筒型と並行して研究を進める色素増感太陽電池の高効率化、さらには研究開発を効果的に進める上でのコツについて聞いた。(聞き手は、大久保 聡=日経BP半導体リサーチ)

――設置方法についても、従来の太陽電池とは考え方が異なる。

早瀬氏  円筒型にすると、太陽電池の設置に対する考え方も変わる。形状が蛍光灯に似ているだけでなく、蛍光灯のような取り扱いも可能で、設置が簡単になるとみている。工事費を抑えられるだけでなく、太陽電池が劣化したらユーザー自らが交換することが可能だろう。

――円筒型の太陽電池の研究開発事例はあまり聞かない。かつて米Solyndra社が無機半導体を使った製品を展開していたが、同社は2011年に経営破綻した。

早瀬氏  円筒型の製造は平板型に比べて特殊であり、ノウハウの蓄積が必要だ。今まで手掛けていないところが、すぐに円筒型を作るのは難しい。私の研究グループではこれまで手作りに近い製造プロセスを使ってきた。量産技術の確立はこれからだ。

――円筒型の利点が多々あることは分かった。ただ、実用化するとなると、変換効率でまだ大きな開きがあるSi系太陽電池とどのように差異化するのか。

早瀬氏  太陽電池は今後、さまざまな場所で使われることになるだろう。そのときに円筒型ならではの用途があるとみている。現在のような太陽電池の使われ方では、変換効率が高く、納入実績があるSi系が強いことは確かだ。だが、太陽光が当たるところすべてに、現在の太陽電池が設置できるわけではない。

 円筒型の色素増感太陽電池でニッチ市場を狙うといっても、市場規模はほぼゼロからのスタートになる。まずは企業にサンプルを使ってもらい、有望市場のあたりを付けたい。

 先述したグリーンハウス内に設置する使い方は、こうした考え方の一例だ。グリーンハウス内で効率的に作物を栽培するために、今後は各種センサの設置が進むだろう。では、それらのセンサの電源はどうするのか。外側から電源ケーブルをはわせてくるのは大変であり、グリーンハウス内に電源を設置する必要が出てくるはずだ。しかし、グリーンハウスでは電源の設置面積を大きく取れない。グリーンハウスで栽培する作物は付加価値の高い高価なものが多いので、グリーンハウス内はできる限り耕作面積を広げたいからだ。こうした状況では、垂直に立てて設置して使える円筒型の色素増感太陽電池の利点が生きてくる。