九州工業大学 大学院 生命体工学研究科長 教授 早瀬修二氏
九州工業大学 大学院 生命体工学研究科長 教授 早瀬修二氏
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円筒型色素増感太陽電池の構造(図:九州工業大学)
円筒型色素増感太陽電池の構造(図:九州工業大学)
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 2012年の固定価格買取制度が施行されて以来、日本では太陽電池の導入量が大きく伸びている。かつて住宅の屋根の上に設置するケースが中心だったが、昨今はメガソーラーに代表される、広い面積の平地などに太陽電池を敷き詰める事例が珍しくなくなった。太陽電池の設置の仕方は変わってきているが、一方で変わらないところがある。それは太陽電池がシート型(平板型)であることだ。

 太陽電池の形状を円筒形に変えることで、太陽電池の設置自由度を高めようとしているのが、色素増感太陽電池を研究開発する九州工業大学 大学院 生命体工学研究科 教授 早瀬修二氏である。垂直に立てて無理なく使うことも可能という。早瀬氏に、円筒型色素増感太陽電池の利点や研究の狙いを聞いた。(聞き手は、大久保 聡=日経BP半導体リサーチ)

――色素増感太陽電池を研究開発する意図は?

早瀬氏 今後の電力供給状況を考えると、再生可能エネルギー、中でも太陽電池の活用を増やしていく必要がある。シリコン(Si)をはじめとする無機半導体を使った太陽電池は、高温での結晶成長が必要で、真空装置を用いることなどから、どうしても製造コストが高くなってしまう。それでは、至る所に太陽電池を普及させるのは厳しい。実現には、より低コストで、そして高い変換効率の太陽電池が必要だ。

 私が研究する色素増感太陽電池は、塗布で製造できるので製造プロセスのコストを低く抑えられるのが特徴である。材料コストも抑えられる可能性が高い。しかも高い変換効率も期待できる。

――早瀬氏の研究グループは円筒型の色素増感太陽電池を手掛けるなど、形状面でも特徴がある。

早瀬氏 私の研究グループの研究方針は二つある。一つは、新しい材料を研究開発し、色素増感太陽電池の変換効率を高めること。もう一つは、色素増感太陽電池を活用する上で最適な形状を探索すること。円筒型の色素増感太陽電池は、後者の研究方針の一環で開発したものである。

 色素増感太陽電池の活用を広める上で私が注目しているのは、セルの封止構造だ。色素増感太陽電池を塗布かつ比較的低い温度で製造するということは製造コストを低くできる可能性がある一方、材料の安定性が懸念点だ。塗布での製造に用いるため、材料はもともと液体に溶かしてある。こうした材料を塗布して作製した膜は往々にして、水や酸素に対して弱く、色素増感太陽電池の性能劣化を引き起こす。そのため、太陽電池セル内への水や酸素の浸入を防ぐ封止が重要だ。

 封止の手法はいくつかあるが、従来からある対策を施すと色素増感太陽電池の製造コストが上がってしまうのが難点だ。簡単かつ低コストで水と酸素の侵入を防ぐ手法として私が行き着いたのが円筒型の色素増感太陽電池だ。