ITは医療にどのような変化をもたらすのか。日本の医療ITは外国人の目にはどのように映っているのか。Windows8は医療現場に変化をもたらすのか--。米Microsoft社のWorldwide Health部門でSenior Directorを務め、医師の資格を持つCrounse氏に、上記3つのテーマに加えて、Microsoftの医療関連戦略に関して話を聞いた(インタビューは2月23日、米ラスベガスで実施)。

(聞き手は本間 康裕=デジタルヘルスOnline)


--なぜ医療現場を離れて、IT企業であるMicrosoftに入社したのですか。

 きっかけは、Microsoft創業者のビル・ゲイツ氏の言葉です。彼は2つの分野に情熱を持っていて、1つは教育、もう1つがヘルスケア(医療・健康分野)だと言っていました。あと個人的にも、ヘルスケアはソフトウエアに大きなチャンスがある市場(産業)だろうと考えました。こんなに大きなチャンスがあるのは、もしかしたら最後かもしれないと。効率的で機能的なヘルスケアソリューションを、民間公共にかかわらず、世界中で探していますから。

クラウンス
Bill Crounse(ビル・クラウンス)氏

米Microsoft社のWorldwide Health部門でSenior Directorを務める。入社以前は、実際に診療現場で医師として20年間活躍していた。医師としてのキャリアの最後は、ワシントン州の非営利団体が運営する病院Overlake Hospital Medical Centerで上級副社長兼CIOを務めた。同centerは、最も革新的で"wired"な病院として有名である。

 米Microsoftに入社して、約10年になります。それまでは現場の医師でした。私が入社したときは弊社のヘルスケアグループはまだ小規模でしたが、この10年でとても大きく成長し、現在は2000人を優に超えます。GEとのジョイントベンチャーCaradigm設立で(関連記事はこちら)、800人ほどが異動する予定ですが、それでも全米で1200人いる計算になります。

--日本の医療については、どのような印象を持っていますか。

 日本にはよく行きますが、とてもユニークな事態が進行中ですね。医療では、まず目立つのが大量のベッド数です。日本は急性期診療向けの入院施設が、とても充実しています。ただし世界の多くの国は、もっとスケーラブルでお金のかからない入院施設・医療施設を指向しています。次は老齢化の進行です。先進国はみな老齢化が進んでいて、コストをどうやって負担するか議論しています。中でも日本は、移民が少ないこともあって特に老齢化が早く進展しています。

 あとは災害医療ですね。東日本大震災のときに、多くの診療情報・カルテが消失し、システムが被害を受けました。以前ハリケーン・カトリーナが米国を襲った時も、同様の被害が起こりました。そもそもカルテが紙だったり、電子化されていても適切なバックアップがなされていなかったり、同じ施設内にコンピュータやサーバーをまとめて置いてあったり、といった状況は理想的とは言えません。今後はクラウド技術の利用などを考慮する必要があります。

 医療IT関連では、日本は多くの正しいことをやっています。例えば以前、東京郊外にある子供向けの大規模病院に行った時、とても驚きました。ほとんど紙を目にしなかったのです。米国も含めた他の先進国でも、こんな病院は見たことがありません。

 非常に初期の段階で、マイクロソフトのユニファイドコミュニケーションプラットフォーム(Microsoft Lync)を利用したソリューションを導入した医療施設も、日本にあります。Lyncは、病院の医師や看護師(ケアチーム)間のコミュニケーションや協力を促進します。たとえばWebプレゼンス機能では、各スタッフの所在が分かるし、最適な連絡方法が分かります。メッセージの送受信はもちろん、ビデオ・音声会議が可能なので、遠隔医療ソリューションとしても利用できるでしょう。

--ITが医療に入ってくることで、どのような変化が起こるのでしょうか。

 以前、エジプトの救急医療システム構築に関わったことがあります。Microsoftとパートナー企業のテクノロジー、GPSを利用して、一から作り上げました。システム導入以前、エジプトでは救急車を呼んでから現場に到着するまで1時間は普通で、2時間かかることもあるという状況でした。交通渋滞がひどいことと、老朽化車両が多いことが理由です。

 そこで人が電話と紙ベースで配車していた仕組みから、ITを利用して車両をリアルタイムでトラッキングできるシステムに切り替えました。車両がどこにいて、患者を乗せているかどうかはもちろん、走行速度まで分かるシステムです。その結果、到着時間は平均8分程度まで大幅に短縮されました。ソフトウエア技術を利用して、どれだけ変革できるかという好例です。