東芝、日立製作所、ソニーの3社の中小型パネル事業を統合する新会社「ジャパンディスプレイ」が、設立準備を急ピッチで進めている。その陣頭指揮に立つのが、新会社の社長に就任予定の大塚周一氏だ(Tech-On!関連記事1同 関連記事2)。2012年春に予定している会社設立までの計画と現在の進行状況、生産体制や研究開発の方針、新会社が強みとする技術、有機EL事業や海外への事業展開に関する方針について、大塚氏に聞いた。(聞き手は、田中 直樹=Tech-On!)

ジャパンディスプレイ 代表取締役社長(予定)の大塚周一氏
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――2012年春の会社設立までの計画と、現在の進行状況を教えてください。

 2012年春の統合時に、ジャパンディスプレイはロケット・スタートしないといけません。この強い意志のもとで設立準備を進めています。当面は独占禁止法に抵触しないように活動するという制約がありますが、その中で、ロケット・スタートに向けてどのような課題があるのかを洗い出し、どうすれば解決できるのかを精査しています。現在は、「何とかできるだろう」という感触を得ています。顧客には絶対に迷惑をかけられませんし、そうならないように準備を進めています。

 ジャパンディスプレイの設立は、従来の事業統合とは異なる点が多くあります。従来の事業統合では、既存の事業を展開していた企業のうち、出資比率で多数を握るところがリーダーシップを取ってまとめていくことがほとんどでした。統合の前後で大きな変化はありません。違和感は比較的小さくて済みます。

 ところが、今回の統合では、ディスプレイ事業を経験していない産業革新機構が70%の出資比率を持ちます。一方、ディスプレイ事業を展開してきた3社の出資比率は10%ずつです。ディスプレイ事業の未経験者を中心に、統合の準備を進めていく必要があります。また、10%ずつ出資していただく親会社の新会社に対する立場も、統合の前後で変わります。一定の支援はお願いすることになりますが、例えば人を引き受けてもらったり、新会社の組織に対して意見を述べてもらったりというような、積極的に関与してもらう立場ではなくなります。つまり、われわれは新会社独自の体制を作っていかなければなりません。

――新会社の体制は、統合前の3社の組織を残したものというよりも、一つの組織に融合したものになるわけですね。

 はい。明快に一つの会社を作ることになります。統合前と統合後では、全く違う世界が待っています。

 ただ、工場の統廃合はそう簡単にはできません。統合前の各社がそれぞれデザイン・インをした製品があるからです。顧客を無視して、2012年春の時点で、無理やり変更することはできません。2012年春のロケット・スタートのために、変えないといけない部分と、既存の活動を延長しながら統廃合を進めないといけない部分があります。

 工場はガラポンでひっくり返すわけにはいきません。設計でもデザイン・インをしている部分は同様です。ただ、本社機能や一般間接部門は1/3にしないといけません。人事部長が3人いるわけにはいきません。これについては、親会社も理解してくれています。新会社の成功の条件である、無駄のない体制の構築に対して、最大限度の協力をいただいています。

――パナソニックから買収する茂原工場への投資計画について教えてください。

 パナソニック液晶ディスプレイの茂原工場は、第6世代基板で大型パネルを生産していた工場です。われわれはこの工場を買い取り、中小型パネルを生産します。まず、アモルファスSi(a-Si)TFTの生産ラインから、低温多結晶Si(LTPS)TFTの生産ラインに転換する必要があります。第1段階として1000億円程度を投資して、LTPS TFTラインに切り替えたいと思っています。ただ、市場動向などを見極めながら、検討する必要があります。どのような形で生産ラインを転換していくのが良いのか、まだお話しできる状況にはありません。