2011年、FPD業界はほとんどのメーカーが赤字に転落するなど、厳しい1年となった。液晶パネルの一大生産拠点である台湾のパネル・メーカーにとっても試練の年となった。例えば、台湾TFT液晶パネル大手の一角を占めるAU Optronics社(AUO)は、2011年第3四半期に売上総利益率-9.2%、営業利益率-17.0%の赤字を計上した。2012年は、どのようにして攻勢に転じるのか。AUO社のFPD事業の責任者であるPaul SL Peng氏に聞いた。(聞き手は、田中 直樹=Tech-On!)

台湾AU Optronics社 President, Display Business OperationのPaul SL Peng氏
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――2012年のFPDの市況を、どのように予測していますか。

 2012年のFPDの世界市場はプラス成長になると見込んでいます。2011年に需要が低迷した大型パネルでも、テレビ向けが前年比10%増、ノート・パソコン向けが同4%増、モニタ向けが同3%増と予測しています(いずれも数量ベース)。なお、ノート・パソコンとモニタについては企業向けの市場が伸びるでしょう。また、ノート・パソコンについては米Intel社が提唱する薄型・軽量の「Ultrabook」の比率が高まり、モニタについてはデスクトップ型パソコンと一体のオールインワン型の市場が伸びると見ています。

――2012年の市場見通しを踏まえたFPD事業の戦略は。

 モニタ向けやテレビ向けの大型パネルについては、2012年の需要は前年比で10%伸びると見ていますので、それに合わせて出荷量を増やします。生産能力の拡大計画はありませんが、工場の稼働率を高めます。現在(2011年12月)の稼働率は75~80%ですが、2012年の目標は90%です。なお、2011年も当初の目標は90%でしたが、市況の変化が大きく、生産調整を余儀なくされました。

 さらに、事業の柱として大きく伸ばしたいのが、スマートフォン用やタブレット端末用の中小型パネルです。2011年、東芝モバイルディスプレイのシンガポールのTFTパネル工場を取得して、生産能力を拡充しました。第4.5世代の低温多結晶Si TFTパネル生産ライン(基板寸法は730mm×920mm)で、生産能力は4万5000シート/月です。

――中小型パネルについて、どのような製品戦略を持っていますか。また、有機ELパネルの量産化の計画は。

 アモルファスSi TFT液晶パネルと低温多結晶Si TFT液晶パネルの二つの大きな柱に加えて、2012年はスマートフォン向け有機ELパネルの量産を開始します。

 アモルファスSi TFT液晶パネルは、生産性の高い第5世代ラインで量産中です。素子構造の見直しにより、もともと200ppiだった精細度を270ppiまで高めました。このパネルを、われわれは「Hyper LCD」と呼んでいます。液晶の方式については、VAモードの「AMVA(Advanced MVA)」技術を採用しています。

 低温多結晶Si TFT液晶パネルは、300ppiを超える高精細が特徴です。スマートフォン向けに生産しています。現在、台湾・新竹の第3.5世代ライン(基板寸法は610mm×720mm)とシンガポールの第4.5世代ラインで量産中です。液晶の方式については、IPSモードの「AHVA(Advanced Hyper-Viewing Angle)」技術を採用しています。

 有機ELパネルは、2012年第2四半期に量産を開始します。ハイエンドのスマートフォン用として、画面サイズは4~5型、精細度は250~300ppiをターゲットにしています。色の鮮やかさや応答の速さを重視する機器メーカーの要求に対しては、この有機EL技術で応えていきます。TFT基板には低温多結晶Siを用います。また、マスク蒸着法によってRGBの3色の有機EL材料を塗り分けることで、カラー・パネルとします。まず、台湾・新竹の第3.5世代ラインで量産を開始する計画です。さらに、2013年後半には、シンガポールの第4.5世代ラインでも量産できるようにします。

――中国で建設している大型液晶パネル工場の状況は。

 江蘇省の昆山市に第8.5世代工場(基板寸法は2200mm×2500mm)を建設中ですが、製造装置の導入計画はまだ決まっていません。製造装置の導入から量産開始まで1年半かかりますので、パネルの量産開始は早くても2014年になります。