ワイヤレス型のデジタルX線撮影装置(DR:Digital Radiography)として「世界最軽量」となる「AeroDR(エアロディーアール)」など、各種の新製品を立て続けに発表しているコニカミノルタエムジー。診断機器を中心とした医療機器の分野に、フィルム事業で培った技術を生かすことで、さまざまな特徴を打ち出している。同社は今、今後の市場展望や事業展開をどう描いているのか。代表取締役社長の児玉氏に話を聞いた。

(聞き手は小谷 卓也)


――他の医療機器(診断機器)メーカーに対するコニカミノルタエムジーの強みは、どこにあると考えていますか。

児玉 篤氏
児玉 篤 氏(こだま あつし)

1973年に早稲田大学 理工学部を卒業後、小西六写真工業に入社。1996年6月にコニカビューロテック(フランス)代表取締役社長、2005年4月にコニカミノルタホールディングス 執行役、2006年4月にコニカミノルタビジネステクノロジーズ 常務取締役 MFP販売本部長などを経て、2010年4月から現職(コニカミノルタホールディングス 常務執行役も兼ねる)。
(写真:皆木 優子)

 コア技術の蛍光材料こそが強みです。蛍光材料が優れていれば、きちんとした医療(診断)画像が提供できるわけですから。蛍光材料の技術は、(コニカミノルタの)フィルム事業で培ってきた化学技術、結晶化技術などを基にしたものです。

 蛍光材料の改善によって、低被曝化を図っていくこともできます。例えば、感度を10倍高められれば、1/10の被曝量で同等の画像を得られるわけです。仮に、被曝量が1/10になれば、1秒間に10コマ撮影するといった“連写”も可能になるでしょう。つまり、より動画に近付けることができます。被写体は動いている生体ですから、1ショットの撮影ではなく、より動画に近いほうが正確に診断できます。もっとも、被曝量を1/10にするというのは簡単な技術ではありませんが、我々はチャレンジしています。

――医療機器(診断機器)は今後、どのように進化していくと見ていますか。

 二つの方向性があるでしょう。一つは、治療機器と融合していくこと。つまり、診断機器と治療機器の境があいまいになっていきます。もう一つは、IT化(医療IT)の流れに沿って進化していくことです。

─―診断機器と治療機器の融合に伴って、コニカミノルタエムジーも治療機器の領域に踏み込んでいくことになるのでしょうか。

 治療機器を手掛けるには、それなりの準備が必要になります。今すぐにということにはなりません。我々はまず、診断機器メーカーとして、“診断を極める”考えです。

 具体的には、今後、(診断機器と治療機器の融合に伴って)診断の段階でやるべき領域は大きく広がっていくと見ています。これまでのように、「ここにがんがあります」と診断するだけではダメなんです。がんの位置を正確に把握して、抗がん剤を病巣にピンポイントで狙って副作用を少なくすることはもちろんですが、この患者に合った抗がん剤はこれで、それを使うとどの程度の期間で治る、といったところまで診るのが、診断だろうと考えています。つまり、実際の治療に入る直前までが診断なのです。

 ですから我々は、患者に合った薬がどれなのかを調べるといった、いわゆる診断薬の分野も積極的にやっていきたいと考えています。我々のライバル企業である富士フイルムのように、薬そのものを手掛けるつもりはないですが、診断薬はどんどんやっていきます。診断薬は、我々が保有する技術を生かして展開していける分野だと考えています。

――一方の医療ITについては、どのような取り組みを進めていきますか。

児玉 篤 氏
(写真:皆木 優子)

 ITを活用した医療の連携が進むのは必然の流れです。我々は既に、病院とクリニック(診療所)を連携させる部分については手掛けています。これから取り組もうとしているのは、クリニックと患者を結ぶ部分です。

 クリニックと患者の連携としてはまず、予約システムが考えられるでしょう。その次は、在宅における生体情報のモニタリングといった仕組みがあります。例えば、指輪のようなものを身に着けているだけで、生体情報をモニタリングできるという世界です。もっとも、こうした取り組みについては現在、健康機器メーカーなどによる動きが活発ですが、我々は医療機器メーカーの立場からアプローチすることを考えています。

 ただし、保険点数にかかわらないこうした分野では、「誰がお金を払うのか」という課題が付きまといます。何らかのメリットとの引き換えでなければ、市場は動き出さないでしょう。例えば、生体情報の在宅モニタリング・システムを使うためには月に1000円掛かるけれども、測定したデータを医師とやり取りしている人は健康保険料が月に1500円安くなりますよとか。あるいは、こうしたシステムを導入していれば生命保険料が安くなるとか、システムの導入費用は税控除の対象になるとか…、とにかく何らかのメリットが必要だと考えます。

─―2011年3月11日に発生した東日本大震災は、今後の医療の在り方にも大きな影響を及ぼす可能性があります。東日本大震災を受けて、医療機器メーカーとして考えることはありますか。

 今回の大震災によって気付いたことがあります。それは、電源についてです。我々は震災直後、現地で必要としているものを援助しようと思い(色々と調べ)ましたが、それは決してレントゲンや超音波診断装置ではなかったのです。電池で動く機器がほしいというのです。電気が供給されていなかったのですから、考えてみれば当然の話です。

 そこで、電池駆動のパルス・オキシメーター(血中酸素飽和度を測定する機器)を東北地方に約400台提供しました。これが、ものすごく評判でした。パルス・オキシメーターが電池駆動なのは、ベッドサイドで利用することが多いためです。まさか、それが今回のような非常時に生きるとは思ってもいませんでした。

 電力や通信回線が使えない状況が、現実に起きたわけです。今後の病院には、非常時の発電システムと衛星通信回線ぐらいは最低限、備えておく必要があることを痛感しました。特に、医療のIT化が進めば進むほど、そのようなバックアップの仕組みは不可欠になるでしょう。