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 フリービットは2010年6月,aigoあるいは愛国者として知られる中国Beijing Huaqi Information Digital Technology Co., Ltd.(北京華旗資訊数碼科技)との提携を発表した。Webサーバー・ソフトウエア「ServersMan」を搭載した家電を,両社が開発・販売していくというものだ。

 aigo社は,デジタル・カメラやUSBメモリ,フォトフレームといった小型の民生機器を手掛ける中国企業として,最も著名である。Huawei(華為)社やHaier(海爾)社などに次ぐ成長企業という評価も一部にある。だがその実態は,IPO(株式公開)していないこともあって明らかでない。それにもかかわらず,フリービットを率いる石田宏樹氏は提携を決断した。その経緯や背景を聞いた(人物写真:加藤 康)。

―― 開発・販売に関する提携に至った経緯を簡単に教えてください。

 aigoという会社を初めて知ったのは,妻からMP3プレーヤーをもらったときでした。中国出身の妻は,地元の製品だから選んだのでしょう,aigo社のものをくれたのです。これが思った以上に良いものだった。こんな個人的な体験をしていたところに藤岡さん(子会社であるエグゼモード 社長の藤岡淳一氏)が,aigo社の夏副総裁と古い知り合いだった。そこでaigo社 総裁の馮軍氏に会ってみることにしました。

―― 「自分達は日本企業だからまともに付き合ってもらえないのではないか」と懸念しなかったのですか。なにせブランド名は愛国者です。

 馮氏は民族主義を標榜するとともに,技術の価値を見抜く目を持ち合わせています。私たちフリービットが持つVPNやサーバーの技術を説明したところ,すぐ興味を示してくれましたよ。コピー商品に依存せずに企業を成長させてきたから,馮氏はそうした「目」を持っているだと思います。

 馮氏は本当に積極的でした。自社がServersManを採用するだけでなく,当社との合弁会社をつくりほかの華人企業にServersManに売り込んで収益を上げるというアイデアに賛成したばかりか,aigo社の稼ぎ頭であるモバイル・ストレージ部門の長を合弁会社のトップに据えました。

―― ウリになるという観点での基幹部品でさえ売れるなら積極的に他社に売る。まさしく中国流のビジネスを本気でやろうと,aigo社は考えているわけですね。ただ…aigo社はほとんどの中国資本の企業と同様,実態が不透明です。だから提携すべきでないというわけではありませんが,「これだけ調べたんだから結果が出なくてもしょうがない」と思えるだけの周到な調査が必要です。

 その通りです。馮氏に対して「私たちだけが企業情報を開示している。このようなアンフェアな状態では良い提携を結べない」と迫ると,馮氏は提携に関係する商品群の収支や販売動向を示してくれました。フリービットではそれらを店舗や取引先,交友関係の調査を通じて検証しています。

 それで分かったのは,aigo社の販売数量が思っていた以上に多かったこと。そして利益率が日本の家電メーカーやパソコン周辺機器メーカーの水準よりもずっと高かったことです。

―― うまくいけばその利益を合弁会社に投じてもらえる。

 そうなります。

―― フリービットからの出向者ばかりが技術面を担うと,フリービットの負担が重すぎる事態になるかもしれません。そこでaigo社における技術系人材の厚さについて伺います。中国では図抜けて優秀な人がいる一方,電機産業の歴史が短いためでしょう,そこまで優秀ではないものの,細かく指示しなくても確実に仕事をしてくれる中堅クラスの人々が少ないように思います。

 aigo社を見学して予想外だったことの一つに,効率的な開発体制を持っていたことがあります。aigo社では,新商品の開発で最初に「カバン」の選択が行われます。カバンとは,とびきり優秀な社員が開発した開発キットで,評価基板や仕様情報など開発に必要なものの多くが詰め込まれています。とびきりではないエンジニア達は,カバンを使い量産に向けたソフトウエアやハードウエアの調整に専念しています。こうした分業が見事でした。

―― aigo社には優秀な技術者が腕をふるいやすい環境があるというわけですね。では日本企業が中国で失敗しがちな点,すなわちスピード第1の中国流ビジネスにテンポを合わせられないという課題を,フリービットはどのように解決しますか。

 私は5年後にフリービットの本社機能を中国に置こうと思っています。東京は支社になりますね。だから2010年に大学院を修了して入社した二人の新人は,中国に配属しました。つまり私たちは中国に合わせる/合わせないという議論をする段階に,もういないのです。aigo社が持つ経営資源や人脈も生かして,私たちは大きく成長するつもりです。

―― 創業経営者の方針とはいえ,日本人社員は受け入れがたいのではありませんか。

 幸いなことに,自然に受け入れつつあります。人事制度を任せている酒井穣氏などが,中国出張から戻った人に体験を報告してもらう会合を開いていることなどが功を奏しているのでしょう。中国の面白さを身近な人から聞けるのですから。

―― aigo社との協力によって,どんな商品を市場投入するのでしょうか。

 まだ申し上げられません。第1~3群に分けて今,並列に開発しており,特に第3群が市場から大きな反響を得られるはずです。