3次元(3D)ディスプレイが実用期に達し,映画やゲーム業界などコンテンツ制作側も立体視が可能な3Dコンテンツを作り始めている。コンテンツ制作・販売側は3Dディスプレイをどう位置づけているのか,ディスプレイ・メーカーやゲーム機などを含めたシステム・メーカーには何を求めているのかを,バンダイナムコゲームス P-7事業本部 ヘッド3Dリサーチャーの宮澤篤氏に聞いた。(聞き手は安保秀雄=編集委員)
問 3Dディスプレイの現状について,どうお考えでしょうか。
宮澤氏 ようやくわれわれが求めていた段階に到達したと思っています。フルHDの映像を左右2チャンネルに表示できるという点は,非常に評価できます。なぜなら,従来のコンテンツ制作の“文法”がほぼそのまま適用できるからです。例えば,左右それぞれ秒60フレームという速度がゲームには重要です。
映画でも,最近はアクティブなメガネ方式にせよパッシブなメガネ方式にせよ,高画質で高いフレームレートで上映することが可能になりました。映画業界でも,3D化したから画質が落ちたというのは許されないと聞いています。
これまで,3D映画や3Dゲームのブームが1980年代などにもありましたが,すぐ下火になりました。それは高画質かつ高フレームレートという基本的な条件を達成できなかったからです。その教訓を学んだコンテンツ業界は,この20年間じーっと3Dディスプレイとゲーム・プラットフォームを含めた3Dシステム全体としての技術を見守ってきました。
2007年ごろに,ハイビジョン(ハイデフ)化や動画性能上の問題が解決することが見えてきました。だから,3D化のタイミングをうかがっていた映画業界もゲーム業界も,本格的にコンテンツを作り始めたのです。
問 依然として3Dテレビはうまくいくのか,と懸念する声もあります。
宮澤氏 一時のブームに終わることはないでしょう。すべてのコンテンツが3Dになることはありませんが,エンターテインメントの分野で3Dの威力はとても大きいといえます。3Dによって新しい面白さや感動を伝えることができるからです。ふだんはできないような驚きの体験が可能になるということです。
問 3Dテレビに関して,ディスプレイ・メーカーやゲーム機などのメーカーに対する要望はありますか。
宮澤氏 質の高いゲーム・コンテンツを作るために,コンピューティング・リソースをもっと高めてほしいという希望があります。それ以上に,一番肝心なコンテンツ制作側の経験値がまだ足りません。視聴者が疲れにくいようにするためには,さまざまな実験や検証も必要だと思います。ハードウエアとソフトウエア,人間工学の技術や知識を擦り合わせていくことが大事です。
ディスプレイの進化によって,3Dコンテンツを制作・提供できるプラットフォームができました。これは日本のテレビ・メーカーが地道な開発を続け,技術を積み上げてくれたおかげです。今後は,コンテンツ・メーカーや安全性の研究者も一緒になって,良質のコンテンツを供給できる体制を作っていくことが重要です。
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