ソニー ネットワークプロダクツ&サービスグループ パーソナルデバイス事業部門 設計2部2課の川端真氏
ソニー ネットワークプロダクツ&サービスグループ パーソナルデバイス事業部門 設計2部2課の川端真氏
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図1 ピタッと吸盤の概要(ソニーのデータ)
図1 ピタッと吸盤の概要(ソニーのデータ)
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図2 従来品(右)と「nav-u NV-U75」シリーズで搭載した開発品(左)。吸盤面積を約30%(本誌計測)小さくしている
図2 従来品(右)と「nav-u NV-U75」シリーズで搭載した開発品(左)。吸盤面積を約30%(本誌計測)小さくしている
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図3 形状が異なる。上が従来品で,下が今回の開発品
図3 形状が異なる。上が従来品で,下が今回の開発品
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 簡易型カーナビ(PND)の取り付けスタンド(クレードル)に,吸盤を採用する国内メーカーが相次いでいる( Tech-On! 関連記事)。その先陣を切ったのはソニーである。同社は2007年3月に発売した「nav-u NV-U1」で「ピタッと吸盤」を初めて採用した(図1)。ピタッと吸盤の開発者で,同社 ネットワークプロダクツ&サービスグループ パーソナルデバイス事業部門 設計2部2課の川端真氏に開発の経緯や今後の方向性などを聞いた。(聞き手は,久米秀尚)

――なぜPNDのクレードルに吸盤を採用したのでしょうか。


 持ち運べるというPNDの利点を生かしたいと考えたのがきっかけでした。実は,欧州では先行して吸盤タイプのPNDを発売していたのですが,簡単に取り付けられることがユーザーに受けました。

 日本向けに導入する際の課題は,国土交通省が定める「保安基準」でした。欧州ではフロント・ガラスに取り付けていましたが,これでは日本の保安基準を満たしません。平滑平面なフロント・ガラスではなく,凹凸のあるダッシュボードへ安定的に固定しなくてはならなくなったことで難易度は格段に上がりました。吸盤メーカーから購入することも検討しましたが,納得いく製品がなく,自社での吸盤開発に踏み切りました。

――2005年ごろから,3人ほどのチームで開発を始めたそうですね。どのようにして実用化したのでしょうか。


 まず,ダッシュボードの凹凸に密着するような柔軟性を持ったゲル材料を使えば良いのではと発想しました。しかし,柔らかい材料で作ると十分に固定できません。そこで,2層構造にすることにしました。具体的には,吸盤本体の形状変形の少ないエラストマー層と,ダッシュボードに吸着する柔軟性のあるゲル層です。

 2層にすること自体は目新しいアイデアではありません。当社の吸盤は,この2つの層を一体成型する点が特徴なのです。ゲルとエラストマーを融着させるのです。2つの層を両面テープで張り合わせる従来の方法に比べて接合強度が高く,耐久性や信頼性に優れるといえます。

 さらに,型成型で製造するため,任意のゲル形状にできます。シート状のゲルを打ち抜いて円形にする一般的な方法とは違い,ゲルの形状や厚さを自由に設定できます。詳細は明かせませんが,吸盤の場所により肉厚を最適化することで吸着力を高められるのです。

――ただ,量産するとなると生産を委託する企業の技術力が重要になります。


 そうですね。国内には数社,型成型でゲルを生産する企業がありますが,我々の要求に応えてくれたのは1社だけでした。吸盤に採用したゲルは通常のものより柔らかく,扱いが難しいのです。そのため,生産設備の仕様まで一緒に検討して開発しました。ちなみに,吸盤用の材料もゲルメーカーに協力してもらい新規に開発しました。

――ピタッと吸盤の登場から約2年後,2009年に入ってパイオニアやパナソニック,三洋電機といった国内メーカーが立て続けに吸盤を採用しました。


 正直,遅かったなという印象です。ただ,ユーザー・ニーズがそれだけ大きいということでしょう。カー用品の取り扱いに慣れていない女性など,新規の顧客層を中心に支持を得ています。実際,当社が調査したPNDの購入動機では「取り付けの手軽さ」が上位に入るほどです。

――吸盤という周辺機器がPNDの競争軸の一つになったということですね。では,今後の開発の方向性は。


 一つは大きさです。PNDは持ち運ぶものなので,クレードルも小さいほうがいい。加えて,吸盤面積が小さいと取り付け場所の制限が減ります。2009年11月7日より販売を開始した「nav-u NV-U75」シリーズでは,吸着力を落とすことなく小型化しました(図2)。ゲルの形状を従来品から変更し,厚さも少し薄くすることで実現したのです(図3)。

 このほか,材料もまだまだ改良の余地があり,開発を続けています。PNDメーカーによる吸盤の差異化を図る開発が今,始まったところではないでしょうか。